はっと我に返った。
気づけば目の前の扉は開いていて、男の人が立っていた。
そこでやっと私は自分が泣いていることに気づいた。
盗み聞きをしてしまった罪悪感と、泣いてることの羞恥心で
プチパニックになった私は咄嗟に逃げようとした。
けれど、腕を掴まれてそれは叶わなかった。
まさか引き止められるとは思わなくて、
驚いて彼を仰ぎ見る。
そしたら彼の方も驚いた表情をしていて、
でもすぐにバツが悪そうに顔を俯けてしまった。
掴まれた腕はそのままで振り切ることもできない。
何か言わないとと思うけど、
喉が震えてまともに喋れそうになかった。
その時、廊下の奥から話し声が聞こえてきた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!