あの記者会見から、もう2週間は経ったのかな
お父さんの病院の経営権は放棄されて、業務上過失致死での起訴が決まった。
入院していた患者さんや通院していた方々はみんな京本カンパニー系列の病院に転院してもらうことになり、MD850の治験も同様に行われることが決まった。
頭の中に思い起こしてみてもやっぱり現実とは思えない。
全部、夢を見ているような
自分事として受け入れられていない
けど、未だにマンションのエントランスに張り付いているマスコミのせいで私はベランダ以外外に出ることが出来ないし
毎日鬱陶しいほどジェシーから心配メールが届くから
ああ、ほんとのことなんだなって実感してしまう。
まん丸に輝く月をぼんやりと見つめながら、吹き抜けるまだ冷たい風にふかれて、またため息をついた。
閉めていた窓が開いて、スーツ姿の大我くんが少し呆れたようにそう言った。
避けていたカーテンを戻して、大我くんは部屋に戻ってしまった。
正直、頭が冴えすぎていて最近はあまり眠れてない。
漠然とした不安と、家にこもりきりのストレスが蓄積しているみたいで全くと言っていいほど眠くないのだ。
大我くんの言う通り、寒いけど
だけど不快な寒さじゃなくて、心を落ち着かせてくれる寒さだから。
でも夜ご飯なんかした方がいいかな?お風呂も沸かした方がいいかな?でもまだ戻りたくないな
そんな風に考えて、部屋に戻ろうか悩んでいた時
またパサりとカーテンが揺れて、部屋着になった大我くんがブランケット片手にベランダに降りてきた。
ブランケットを私の肩に掛けながら、大我くんは私の横にもたれて同じように空を見上げてる。
親類との面会は禁止されていて、私はあれから一度も父とちゃんと話せていない。
大我くんには今日代わりに面会に行ってもらったのだ。
あんな手紙を書くくらいだから、憔悴し切ってたらどうしようかと思っていたけど
ちゃんと人と話して笑えるなら大丈夫だ。
くしゃくしゃと私の頭を撫でて、大我くんはまた外に目を向けた。
すごく、穏やかな時間が二人の間を流れた
しばらく2人で、ぼんやりと景色を眺めていたら吹き抜ける風が一段と寒くなってきた。
これ以上大我くんを付き合わせて風邪をひいたら大変だ。
踵を返して窓に手をかけて、振り返ると大我くんはまだ外に目を向けたままだった。
背中しか見えない
だけど、少しだけ彼の肩が震えているような気がした
やっと振り向いた大我くんの姿が月光に照らされて儚く光る。
彼の表情も相まって、
消えてしまいそうなほどだった
だからかな、彼が言っている言葉が何か
理解が出来なかった












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!