第5話

留守番
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2026/03/16 15:00 更新
夜のリビングには、静かな緊張が流れていた。

テーブルの上には地図と端末が広げられていて、bulletのメンバーがそれぞれ目を通している。任務の前の、いつもの時間だった。

マサヒロは少し離れたソファに座って、その様子を見ていた。

こういう時は、だいたい分かる。
みんながこれから出かけるということ。

少し前までなら、その時間になると誰かが「部屋で待ってようか」と優しく言ってくれていた。けれど今日は、まだ誰も何も言わない。

カイが資料を閉じる。

「……時間だな」

その一言で、みんなが立ち上がり始める。

マサヒロの胸が、少しだけきゅっとなる。

その瞬間、気づく。
今日は、自分のことがまだ決まっていない。

リョウガが言う。

「今回はどうする?」

その言葉の意味は、マサヒロにも分かった。

連れていくか。
誰か残るか。

少しの沈黙が落ちる。

マサヒロは、少しだけ手を握ってから口を開いた。

「……ぼく」

みんなが振り向く。

マサヒロは少しだけ視線を下げて、それでもちゃんと言った。

「……待ってる」

部屋が静かになる。

ハルが一瞬だけ目を丸くした。
アロハも少し驚いた顔をする。

前に庭でさらわれたことがある。
だから、みんなはできるだけ一人にしないようにしていた。

マサヒロはそれも分かっていた。

それでも、言ってみたかった。

「……お留守番、できる」

声は小さいけれど、はっきりしていた。

タカシが腕を組んで少し考える。

「……ほんまにええんか?」

ユーキも静かに聞く。

「怖くない?」

マサヒロは少し考えてから言った。

「ちょっとは、怖い」

正直な答えだった。

「でも……」

顔を上げる。

「待ってたい」

その言葉に、部屋の空気が少しだけ変わる。

カイはマサヒロを見て、しばらく何も言わなかった。

それから静かに口を開く。

「……分かった」

短い言葉。

そして続ける。

「家、頼んだ」

マサヒロの目が少し大きくなる。

それは、初めて言われた言葉だった。

任せるという言葉。

マサヒロはゆっくり頷く。

「……うん」

みんなが準備を終えて玄関に向かう。

リョウガが軽く頭を撫でる。

「無理すんなよ」

アロハが笑う。

「テレビでも見て待ってろ」

タカシが靴を履きながら言う。

「知らん人来ても絶対開けたらあかんで」

ユーキも静かに言う。

「何かあったらすぐ連絡」

マサヒロは一人一人の言葉を聞いて、小さく頷く。

そしてドアの前で言った。

「……いってらっしゃい」

その言葉に、みんなが少しだけ驚く。

でもすぐに、カイが短く返す。

「行ってくる」

ドアが閉まり、家の中が静かになる。

マサヒロはしばらく玄関の前に立っていた。

それからゆっくりリビングに戻る。

ソファに座り、テレビをつける。

画面にはバラエティ番組が映っていて、楽しそうな声が流れていた。

マサヒロはぼんやりそれを見ながら思う。

今ごろ、みんなは車に乗ってるかな。
タカシはきっと運転席で何か文句言ってる。
アロハは後ろで笑ってるかもしれない。
ユーキは静かに窓の外を見ている。

そんな想像をしながら、少しだけ笑う。

怖さは、まだ少しある。

でもそれ以上に思う。

「……早く帰ってきてほしいな」

そう呟きながら、マサヒロはテレビを見続けた。

それは、初めての留守番だった。

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