夜のリビングには、静かな緊張が流れていた。
テーブルの上には地図と端末が広げられていて、bulletのメンバーがそれぞれ目を通している。任務の前の、いつもの時間だった。
マサヒロは少し離れたソファに座って、その様子を見ていた。
こういう時は、だいたい分かる。
みんながこれから出かけるということ。
少し前までなら、その時間になると誰かが「部屋で待ってようか」と優しく言ってくれていた。けれど今日は、まだ誰も何も言わない。
カイが資料を閉じる。
「……時間だな」
その一言で、みんなが立ち上がり始める。
マサヒロの胸が、少しだけきゅっとなる。
その瞬間、気づく。
今日は、自分のことがまだ決まっていない。
リョウガが言う。
「今回はどうする?」
その言葉の意味は、マサヒロにも分かった。
連れていくか。
誰か残るか。
少しの沈黙が落ちる。
マサヒロは、少しだけ手を握ってから口を開いた。
「……ぼく」
みんなが振り向く。
マサヒロは少しだけ視線を下げて、それでもちゃんと言った。
「……待ってる」
部屋が静かになる。
ハルが一瞬だけ目を丸くした。
アロハも少し驚いた顔をする。
前に庭でさらわれたことがある。
だから、みんなはできるだけ一人にしないようにしていた。
マサヒロはそれも分かっていた。
それでも、言ってみたかった。
「……お留守番、できる」
声は小さいけれど、はっきりしていた。
タカシが腕を組んで少し考える。
「……ほんまにええんか?」
ユーキも静かに聞く。
「怖くない?」
マサヒロは少し考えてから言った。
「ちょっとは、怖い」
正直な答えだった。
「でも……」
顔を上げる。
「待ってたい」
その言葉に、部屋の空気が少しだけ変わる。
カイはマサヒロを見て、しばらく何も言わなかった。
それから静かに口を開く。
「……分かった」
短い言葉。
そして続ける。
「家、頼んだ」
マサヒロの目が少し大きくなる。
それは、初めて言われた言葉だった。
任せるという言葉。
マサヒロはゆっくり頷く。
「……うん」
みんなが準備を終えて玄関に向かう。
リョウガが軽く頭を撫でる。
「無理すんなよ」
アロハが笑う。
「テレビでも見て待ってろ」
タカシが靴を履きながら言う。
「知らん人来ても絶対開けたらあかんで」
ユーキも静かに言う。
「何かあったらすぐ連絡」
マサヒロは一人一人の言葉を聞いて、小さく頷く。
そしてドアの前で言った。
「……いってらっしゃい」
その言葉に、みんなが少しだけ驚く。
でもすぐに、カイが短く返す。
「行ってくる」
ドアが閉まり、家の中が静かになる。
マサヒロはしばらく玄関の前に立っていた。
それからゆっくりリビングに戻る。
ソファに座り、テレビをつける。
画面にはバラエティ番組が映っていて、楽しそうな声が流れていた。
マサヒロはぼんやりそれを見ながら思う。
今ごろ、みんなは車に乗ってるかな。
タカシはきっと運転席で何か文句言ってる。
アロハは後ろで笑ってるかもしれない。
ユーキは静かに窓の外を見ている。
そんな想像をしながら、少しだけ笑う。
怖さは、まだ少しある。
でもそれ以上に思う。
「……早く帰ってきてほしいな」
そう呟きながら、マサヒロはテレビを見続けた。
それは、初めての留守番だった。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。