第12話

20歳、春〈Ⅳ〉
211
2022/09/10 04:27 更新
 家に帰って水色の箱を開けると、中に革製の小さな黒色の袋が入っていた。金色の紐で結ばれた袋の口を開いて指を入れると、USBがひとつ出てくる。

 何のデータが入っているのだろう。わたしがタイムカプセルに写真を入れたように、絢人も思い出の写真を保存して入れたのかもしれない。

 わたしは部屋の机に置いたノートパソコンを開くと、USBを差し込んだ。

 USBの中にはデータがひとつだけ保存されている。データ名は『To Alice』

 開いてみると、それは動画のデータだった。再生ボタンを押すと、白い壁がガタガタとブレて映る。
三嶋絢人
『なぁ、旭。これ、うまく写ってる?』
 真っ白な壁が映っているだけの画面に突然音声が入る。

 5年ぶりに耳にするなつかしい声に胸を震わせていると、画面の中に絢人が姿を現した。

 絢人が着ているのは、中学のときの黒の学生服。髪型はさっぱりと短くて、散髪したて。たぶん、この動画に映っているのは中学を卒業する二週間くらい前の絢人だ。
三嶋絢人
『どのへん立てばいい?』
 絢人が切り立ての前髪を気にするように弄りながら、カメラに近づいたり遠ざかったりする。
柳瀬旭
『そこ、あー、もう二歩前』
 柳瀬くんがカメラマンなのだろう。彼の声に指示されて、絢人がカメラの真ん中のちょうど良い位置で止まる。
三嶋絢人
『じゃあ、こっから本番』
 そう言って咳払いすると、絢人がカメラの向こうから真っ直ぐにじっとこちらを見つめてきた。
三嶋絢人
『20歳のありすへ。ありすがこれを見るときに、隣にいられることを願って、15歳の三嶋絢人からメッセージを残します』
 そんな言葉で始まった15歳の絢人からの突然のビデオメッセージに、ドクンと心臓が跳ねる。

 ドキドキしながらパソコンの画面を見つめるわたしに、15歳の絢人は無邪気に笑いかけてきた。
三嶋絢人
『ありす、20歳の誕生日おめでとう。遅くなったけど、約束していたものを5年越しでプレゼントさせてください』
 絢人がそう言って、ポケットから革製の黒い袋を取り出す。

 それからわたしの前で袋を口を縛る金色の紐を解くと、そこから取り出したものをわたしに見せてきた。
三嶋絢人
『もう見てくれてるかもしれないけど、クラスのタイムカプセルの中に、ありすの15歳の誕生日に渡そうと思っていた指輪を埋めました』
 動画の中の絢人が右手の指で摘んで見せているのは、ローズゴールドの細い指輪だ。
三嶋絢人
『ほんとうは今年の誕生日に渡したかったんだけど、いろいろ事情があって渡せそうにないから。これをタイムカプセルに入れて、20歳の俺に託します』
 絢人がそう言って、黒い袋の中に大切そうに指輪をしまう。それから、水色の小さなギフトボックスに入れて蓋をした。
三嶋絢人
『もう知ってると思うけど、俺、病気がみつかって治療を受けるんだ。治療にちょっと時間がかかる病気で、治るまでに数年かかるんだって』
 手元の水色の箱をいじいじと触りながら、絢人がちょっと困ったように眉尻を下げる。
三嶋絢人
『だけど、5年後にタイムカプセルを掘り起こすときにはきっと治ってるだろうし。それに指輪を渡すのも、20歳くらいが年齢的にちょうどいいのかなーって思うんだよね。20歳でも世間一般には早すぎるのかな。どっちにしてもさ、これを見てる20歳のありすが俺のこと好きでいてくれたら、本人からちゃんとプロポーズの言葉を聞いてほしい。じゃあ、ここからは20歳のおれにバトンタッチ。頑張れよ〜』
 絢人がふざけたように笑って両手を振ったところで、動画が終わる。それを見終わったわたしは、頭が真っ白になって動けなかった。

 しばらく茫然したあと、もう一度最初から動画を再生する。

 二回目の再生で、わたしはようやく、動画の中で絢人が指輪を入れていた袋が、USBが入っていたのと同じものだということに気が付いた。

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