ついに、この日がやってきた。
2月の体育館は、冬の冷たい空気さえも体育館に集まった生徒たちの熱気で白く霞んで見える。
舞台裏の控室。私とマナ先輩は、緊張のあまり何度もトイレを往復していた。
似たもの同士そう言って顔を見合わせ、引きつった笑顔で笑う先輩の、その姿がなんだかおかしくて、私もつられて笑ってしまった。
半年間に一度の、学校中が熱狂する大イベント。
部内の並み居る強豪バンドを差し置いて、トップバッターという大役を任されていた私たちは、今、薄暗い舞台裏で円陣を組んでいた。
『これより、軽音楽部特別ライブを開始します!』
アナウンスと共に、体育館の照明が一斉に落ちた。
ドッと押し寄せるような大歓声。その暗転の中に、私たちは静かに足を踏み入れた。
まだ幕が下ろされている舞台上。
それぞれの楽器の前に立ち、暗闇の中で音の出ない合図を交わす。
ギターのネックを握り直し、ドラムがスティックを構える。
幕がゆっくりと上がると同時に、強烈なスポットライトが私を射抜いた。
まぶしさに目を細めながらも、私は迷わず鍵盤に指を置く。
イントロが体育館に響き渡った瞬間、世界から雑音が消えた。
私たちの半年間のすべてを注ぎ込んだ音楽が、体育館の天井を突き抜けるように響き渡る。
曲の途中、ふっとマナ先輩がこちらを振り返った。
そこには、たった4ヶ月前、客席の端っこで私が一目惚れした「あの人」がいた。
眩しいスポットライトを浴びて、誰よりも楽しそうに、誰よりも自由に歌う人。
マイク越しに視線が絡む。
先輩が私に向けて、優しく、そして力強く微笑んだ。
その刹那、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
高らかに響くハスキーな歌声も、リズムを刻むその背中も、一瞬たりとも見逃したくない。
4ヶ月前は遠くから見つめるだけだったその存在が、今はすぐ隣で、私と一緒に音楽を紡いでいる。
恋しかった。
ずっと、こうして目が合う瞬間を、言葉以上の何かで繋がるこの瞬間を、私は待っていたんだ。
全神経を指先に込め、最後の和音を叩きつける。
体育館を揺らすような拍手の渦の中で、私は確信していた。
一目惚れから始まったこの気持ちは、もう「憧れ」なんて言葉じゃ収まらない。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!