――孤独に染まった冬の空の下で、
それでも誰かが自分を見つけてくれる瞬間がある。
1月の空は、どこまでも澄み切っている。それなのに、
どこか冷たく孤独だ。
放課後の昇降口で、アンシンはじっと校門を見つめていた。今日はあえて帰り支度をゆっくりとして、ジアハオ先輩とタイミングを合わせようとしていた。
──もう、先輩は卒業間近。
やっぱり、少しでも、一緒にいたい。
そんな淡い期待を胸にマフラーの端を指先でいじりながら待っていると、校舎のドアが開く音がした。
顔を上げると、出てきたのはジアハオ先輩とリオ先輩。
2人は肩を並べて歩きながら、笑い合っている。
そう言って顔を見合わせ笑い合う。
軽口なのに、距離が近い。
声のトーンも、歩くリズムも、呼吸まで同じように見えた。
アンシンは足を踏み出しかけて、止まった。
唇を噛んで俯く。
──駄目だ。入れない。
そこは、自分には届かない場所だった。
1年生の自分には踏み込めない、先輩たちの空気。
苦しくて、視界が滲んだ。
気付けば2人はアンシンの目の前に立っていた。2人ともコートを羽織り、息を白くしながら笑っている。
リオが柔らかく首を傾げる。
ジアハオが短く言い、にこっと笑う。
──なんて2人とも自然なんだろう。
その距離感が、息苦しいほど眩しい。
リオが何気なく聞く。
リオの声は優しくて、一瞬、喉が詰まる。
一緒に行きたい、けれど──隣に並ぶ自信なんてない。
嘘をつく声が震えた。
リオはそっと微笑む。どこか安心した表情だ。
ジアハオが軽く手を上げる。
アンシンは頭を下げ、リュックを掴んで2人に背を向ける。
歩き出した瞬間、胸の奥がぎゅっと痛んだ。
遠くで、2人の笑い声が重なる。
その響きが、冬の空気より冷たく沁みた。
──やっぱり、俺の入る隙間なんて無いよな。
そう思ったら、スマホを取り出す指が震えていた。
画面に浮かぶ「サンウォン先輩」の名前を見つめる。
12月頃から先輩からの連絡は無く、初めて自分からLINEを送ってみようかと、思ったりしてみる。
どうでもいいや、壊れたって。
寂しさをごまかせるなら、それで──
"今から、会えませんか。"
親指が送信ボタンに触れかけた、その瞬間。
背中から呼ばれ、振り返ると──
サンヒョンが、真剣な目で立っていた。
その表情は、真剣だった。
胸の奥がざわめいて、アンシンは視線を落とす。
いつになく強い声。
サンヒョンは一拍置き、深呼吸した。
そう言って、自転車の後ろを軽く叩く。何も言えないまま跨がると、ペダルが音を立てて滑り出した。
冷たい風が顔を突き刺し、耳が痺れるほど寒いのに、
不思議と胸の奥だけは熱い。
冷たい向かい風に負けないように大声で叫ぶ。
サンヒョンも負けじと叫び返す。
10分ほど漕ぐと、潮風の匂いがした。
灰色の海が見える頃には、指先の感覚がもうなかった。
冬の砂浜は人影もなく、ただ波の音だけが響いている。
サンヒョンは真っ直ぐアンシンの方を向いた。
凍てつく空気で鼻が赤くなっている。
真っ直ぐな目が射抜くように見つめてくる。
少し震えたサンヒョンのその言葉は、アンシンの凍った心を少しずつ溶かしていく。
サンヒョンはふわりと笑って、手を差し出した。
アンシンは力なく笑い、指先を差し出す。
その言葉を遮って、サンヒョンは躊躇わず、その手を包みこんだ。
暖かかった。
じんわりと、指先から体の奥へ火が灯るみたいに。
サンヒョンが握った手を引っ張り、2人は砂浜へ踏み出した。
サンヒョンが思わず声を上げる。
そう言いながらも、アンシンの口元には自然と笑みが浮かんでいた。さっきまで胸の奥にへばりついていた重たい影が、少しだけ遠のいていく。
サンヒョンが波打ち際へ駆け出した。
そう言いながら、アンシンも思わず追いかける。
波が寄せてきて、二人は慌てて飛び下がった。
ざぶん、と冷たい水しぶきが足首にかかる。
笑いながら、2人は何度もギリギリのところまで近づいては逃げ、靴の先を濡らしては大げさに騒いだ。
冬の海に、2人の笑い声だけが響く。
息を切らし、砂浜に並んで座る。
サンヒョンがぽつりと言う。
サンヒョンがぽつりと言う。
アンシンは空を見上げ、小さく息を吐いた。
真冬の空は澄みきり不思議と広くて、泣けるほど優しい空だった。
サンヒョンはそう言って、もう一度、そっとアンシンの手を握った。
それから2人は、部活に打ち込む日々へ戻った。
サンヒョンはグラウンドでサッカーボールを追いかけ、
アンシンは体育館でバレーボールを見上げる。
でもたまに、体育館の扉とグラウンドのフェンス越しに、姿を見かけることがある。
その横顔を確認できただけで、不思議と胸の奥が暖かくなる日々。
付き合っている、と言うにはまだ程遠い2人の距離感。
――でも、互いの存在が、少しずつ心を満たしていく。
冬の空は相変わらず冷たかったけれど。
胸の奥だけは、確かに春へ向かっていた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。