第11話

頑張るために必要なもの
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2022/05/01 01:00 更新
静かな厨房で、奏人くんは険しい顔で書類と向き合っていた。
桜森 奏人
桜森 奏人
これ、花世ちゃんが考えたの?
奥永 花世
奥永 花世
うん……だ、だめだったかな……?
桜森 奏人
桜森 奏人
ううん、栄養も偏ってないし、よく考えられてると思う
桜森 奏人
桜森 奏人
すごいよ花世ちゃん
勉強したの?
奥永 花世
奥永 花世
うん……
春休みは、もうすぐ終わる。
それは、私のお手伝い期間も終わるという事。
奥永 花世
奥永 花世
(なのに……私、まだ全然変われてない気がする)
皆褒めてくれる。ありがとうって伝えてくれる。
でも、もっともっと頑張らなくちゃいけない。
こんなんじゃ、今までと同じで平均が出来るようになっただけで終わっちゃう。
桜森 奏人
桜森 奏人
明日からこのメニューで行くよ
桜森 奏人
桜森 奏人
花世ちゃんすごいね
これだけ栄養が考えられるのなんて、簡単じゃないんだよ
奥永 花世
奥永 花世
……ありがとう、奏人くん
奥永 花世
奥永 花世
お願いします
奏人くんに頭を下げて厨房を出る。
まだまだ、頑張らなくちゃ。



次の日、早速奏人くんは私の考えたメニューで作ってくれた。
ちょっと質素な感じになっちゃうかなって思ったけど、さすが奏人くん。
見た目も色鮮やかで、美味しそう。
奥永 花世
奥永 花世
ありがとう奏人くん!
桜森 奏人
桜森 奏人
あ、花世ちゃん待って
早速持っていこうとすれば、奏人くんに止められる。
桜森 奏人
桜森 奏人
これ、良かったら食べて
ここのとこ、休憩時間もちゃんと休んでないでしょ
奏人くんが差し出してきたのは、チョコレートだった。
奏人くんの手作りということはすぐにわかる。
奥永 花世
奥永 花世
ありがとう……
大河くんが呼びに来たので仕方なさそうにそっちに行ったけど、奏人くんはまだ何か言いたそうだった。










奥永 花世
奥永 花世
有栖さん、お食事持ってまいりました
扉を開ければ、有栖さんは驚いたような顔をしていた。
不思議に思いつつも、メニューの説明をする。
奥永 花世
奥永 花世
今日はまた少しメニューを変えてみました
有栖さんは好き嫌いがないみたいなので大丈夫だとは思うんですが……
有栖 偉月
有栖 偉月
うん、大丈夫だけど……花世ちゃん、大丈夫?
奥永 花世
奥永 花世
はい!
では、ごゆっくり
頭を下げて、次は夢咲さんの部屋に向かう。
奥永 花世
奥永 花世
夢咲さん、お食事……
いつも通りノックしたはずだった。
だけど、その感触がない。
奥永 花世
奥永 花世
(あれ、おかしいな……)
座ったまま頭がぐるぐる回る。
でも、身体は全然動いてくれなくて……




夢咲 永和
夢咲 永和
…………
ガラッと目の前の扉が開いて、浴衣から覗く裸足が見える。
顔を上げようとしたのに、視界は真っ暗になってしまった。







奥永 花世
奥永 花世
あれ……
聞いたことのある軽快な音で目を覚ます。
見慣れたような、そうでもない天井。
夢咲 永和
夢咲 永和
起きた?
その天井を隠すように、横から夢咲さんの顔が現れた。
少し顔をずらせば、すっかりおなじみになったテレビ画面とゲーム機が見える。
奥永 花世
奥永 花世
(ここ、夢咲さんのお部屋!?)
自分が布団に寝かされてることに気が付いて、身体を起こそうとする。
夢咲 永和
夢咲 永和
だめ
だけど、夢咲さんにおでこを押されて布団に押し戻されてしまう。
夢咲 永和
夢咲 永和
過労だって。熱出てる
しばらく休めって。東雲って人が言ってた
奥永 花世
奥永 花世
大河くんが……
頷いた夢咲さんは、ずれた掛布団を直してくれて、そのままゲームに戻る。
軽快な音を響かせて動き出す画面。
最近いつも肩から掛けている羽織がないと思ったら、掛布団の上に重ねてくれていた。
奥永 花世
奥永 花世
(お客さんにこんな気を遣わせちゃって……何してるんだろ私……)
奥永 花世
奥永 花世
(頑張らなくちゃって思ってたのに、もっと頑張らなくちゃいけないのに……)
休んでる場合じゃない。気を遣わせてる場合じゃない。
こんなことでダウンしてるから、凡人から抜け出せないんだ。
奥永 花世
奥永 花世
(悔しい……)
思わずこぼれそうになった涙を、腕で拭う。
その時、私のおでこに冷たい何かが触れた。
腕を外せば、そこにいたのは夢咲さん。
気が付けば、軽快な音楽も止まっている。
夢咲 永和
夢咲 永和
つらい?
心配そうに覗いてくる夢咲さんと、おでこに置かれた冷たい感触が動く。
夢咲さんの手が、私のおでこに乗っていた。
夢咲 永和
夢咲 永和
……平均って、そんなに悪いことなの?
奥永 花世
奥永 花世
え……?
夢咲 永和
夢咲 永和
ごめんなさい、聞いちゃった
なんでお姉さんがこんなに僕たちのために動けるかが分からなくて
夢咲さんの表情はほとんど変わらない。
だけど、少しだけ心配そうな顔をしてくれている気がする。
夢咲 永和
夢咲 永和
平均だったとしても、お姉さんは優しいじゃん
それじゃダメなの?
夢咲 永和
夢咲 永和
僕知ってるよ。お姉さんが僕たちのためを考えてたくさん動いてくれてたの
部屋から出ない僕を心配してくれてたのも知ってる
今まで話すことなんて一言二言だった夢咲さんが、力強くそう話してくれる。
夢咲さんの冷たい手が、おでこから目元に下がってくる。
夢咲 永和
夢咲 永和
お姉さん、ちょっと休んで
あれだけ頑張ってたんだから、少しくらい休んだって罰は当たらないと思うよ
夢咲 永和
夢咲 永和
それに、お姉さんが休んじゃダメなら、僕だって、ダメになっちゃう
夢咲さんは、思っていた以上に中学生ぽい話し方するんだな、なんて、どうでもいいことを考えてしまう。
夢咲 永和
夢咲 永和
僕と、一緒に休もう?
夢咲さんの言葉に、私は目を閉じる。
夢咲さんの冷たい手が、またおでこに戻ってくる。
その心地よさに、私は多分、すぐに眠りに落ちた。
夢咲 永和
夢咲 永和
おやすみなさい
休んでも大丈夫。
きっと、夢咲さんもそう言ってほしかったのかもしれないな。

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