静かな厨房で、奏人くんは険しい顔で書類と向き合っていた。
春休みは、もうすぐ終わる。
それは、私のお手伝い期間も終わるという事。
皆褒めてくれる。ありがとうって伝えてくれる。
でも、もっともっと頑張らなくちゃいけない。
こんなんじゃ、今までと同じで平均が出来るようになっただけで終わっちゃう。
奏人くんに頭を下げて厨房を出る。
まだまだ、頑張らなくちゃ。
次の日、早速奏人くんは私の考えたメニューで作ってくれた。
ちょっと質素な感じになっちゃうかなって思ったけど、さすが奏人くん。
見た目も色鮮やかで、美味しそう。
早速持っていこうとすれば、奏人くんに止められる。
奏人くんが差し出してきたのは、チョコレートだった。
奏人くんの手作りということはすぐにわかる。
大河くんが呼びに来たので仕方なさそうにそっちに行ったけど、奏人くんはまだ何か言いたそうだった。
扉を開ければ、有栖さんは驚いたような顔をしていた。
不思議に思いつつも、メニューの説明をする。
頭を下げて、次は夢咲さんの部屋に向かう。
いつも通りノックしたはずだった。
だけど、その感触がない。
座ったまま頭がぐるぐる回る。
でも、身体は全然動いてくれなくて……
ガラッと目の前の扉が開いて、浴衣から覗く裸足が見える。
顔を上げようとしたのに、視界は真っ暗になってしまった。
聞いたことのある軽快な音で目を覚ます。
見慣れたような、そうでもない天井。
その天井を隠すように、横から夢咲さんの顔が現れた。
少し顔をずらせば、すっかりおなじみになったテレビ画面とゲーム機が見える。
自分が布団に寝かされてることに気が付いて、身体を起こそうとする。
だけど、夢咲さんにおでこを押されて布団に押し戻されてしまう。
頷いた夢咲さんは、ずれた掛布団を直してくれて、そのままゲームに戻る。
軽快な音を響かせて動き出す画面。
最近いつも肩から掛けている羽織がないと思ったら、掛布団の上に重ねてくれていた。
休んでる場合じゃない。気を遣わせてる場合じゃない。
こんなことでダウンしてるから、凡人から抜け出せないんだ。
思わずこぼれそうになった涙を、腕で拭う。
その時、私のおでこに冷たい何かが触れた。
腕を外せば、そこにいたのは夢咲さん。
気が付けば、軽快な音楽も止まっている。
心配そうに覗いてくる夢咲さんと、おでこに置かれた冷たい感触が動く。
夢咲さんの手が、私のおでこに乗っていた。
夢咲さんの表情はほとんど変わらない。
だけど、少しだけ心配そうな顔をしてくれている気がする。
今まで話すことなんて一言二言だった夢咲さんが、力強くそう話してくれる。
夢咲さんの冷たい手が、おでこから目元に下がってくる。
夢咲さんは、思っていた以上に中学生ぽい話し方するんだな、なんて、どうでもいいことを考えてしまう。
夢咲さんの言葉に、私は目を閉じる。
夢咲さんの冷たい手が、またおでこに戻ってくる。
その心地よさに、私は多分、すぐに眠りに落ちた。
休んでも大丈夫。
きっと、夢咲さんもそう言ってほしかったのかもしれないな。
















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。