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第1話

やめてよ。
12
2024/03/09 15:08
夜、彼は私を抱きしめて泣く。
ごめん、ごめんと。

『ごめんって言うなら最初からしないでよ』

そう強く言えない私は、弱いのか。

彼は泣く。理由は分からない。
酒が入ればすぐにこうだ。

泣きたいのは私の方なのに。

「ごめんね、ごめん、由紀が1番なんだ」

私には分からない。

「いいよ。これでもう最後にしてよね。」

彼の零す涙が本物なのか。
偽物なのか。

「もちろんだよ。おやすみ」

彼から匂う、
鼻腔をくすぐるような甘い女の匂いに、
吐き気がする。

既に寝落ちした彼の髪を撫でる。

「いちばんに、してよ……
私にしてよ、もう、やめてよ」

カーテンで閉め切られた部屋には、
私の僅かな泣き声と、彼の寝息と、
沢山の匂いが充満していた。

息苦しいような、慣れたような、
この空間には。
私と彼との思い出が詰まっている。

『大好きだよ』

はっきりと言えない私は、
弱虫だ。

そして、いちばん重要なことを
伝えられないのもまた、弱虫だ。

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