第119話

📚️:死者が還る日
53
2025/12/26 09:22 更新
12月26日はハロウィンです(絶対違う)。

⚠注意⚠
・軽度のGL(ミルアイ)の描写あり

大遅刻(約2ヶ月遅れ)のハロウィン短編です。お待たせ致しました…!!
アイスティーside
「アイスティー、ハッピーハロウィンッ!」

「…おはよう、ミルクティー」
10月31日の朝。約束通りの時間に待ち合わせ場所へ現れた相棒に挨拶を返し、ベンチから立ち上がる。
すると、私の挨拶がお気に召さなかったのか、ミルクティーは少しだけ頬を膨らませた。
「アイスティーもハッピーハロウィンって言ってよぉ〜。せっかくハロウィンなんだから、楽しまなきゃ!」

「いや…私は正直、仮装だけで十分なんだが……」
ため息を堪えつつ、自身が纏う衣装に目をやる。

普段の私なら絶対に着ないであろう、大きく膨らんだ黒いスカート。同じく黒いブラウスの胸元には大きなリボンがついていて、はっきり言うとかなり動きにくい。
世間でロリータファッションと呼ばれているそれは、仮装のため、という名目で先日ミルクティーと共に買いに行った代物だ。
「別にカチューシャ付けるだけで良かっただろ…動きにくい服はあんまり好きじゃないんだ」

「それじゃお揃いにできないでしょ? だいじょーぶっ、アイスティーすっごく似合ってるから!!」

「そういう問題じゃないんだけどなぁ……」
アイスティー可愛いよ〜っ、と言ってミルクティーが私に抱きつき、私を見上げてニコニコ笑った。

ミルクティーが抱きついてくるのは日常茶飯事のため、感情を顔に出さないように注意しながらこちらも抱き締め返す。

そして、ミルクティーが満足して離れてから、改めて彼女の装いに目を向けた。
「…ミルクティーは似合ってるな、仮装」

「そうかな…えへへっ、ありがとっ!」
今日のミルクティーは私と色違いの白いブラウスとスカートを纏っていて、頭の上には天使の輪っかを乗せていた。
……ミルクティーの方が、私よりも遥かに似合っているし可愛いと思う。まるで本当の天使みたいだ。……恥ずかしいから、本人には言わないけれど。

そんな事を考えつつ、自分のスカートに付いている先が尖った尻尾の位置を調節して、ついでに頭の上の角が付いたカチューシャの位置も直す。
天使の仮装をしているミルクティーと対になるように、私は悪魔の仮装をしているのだ。

ミルクティーは2人で一緒に天使の仮装をするつもりだったみたいだったが、完全にお揃いにすると私の心が耐えきれそうになかったので、頼み込んで何とかこのような形にしてもらった。
「よぉ〜し! さっそくお菓子もらいに行こっ! どこ行く? やっぱり最初は主のところ?」

「……まぁ、そうだな」
あいつはミルクティーと私の装いを見れば、間違いなくからかってくるだろうが……変に秘密にして、外でばったり出くわしたりなんかしたらもっと面倒なことになるだろう。
それだけは何としてでも避けたい。
「…あっ!」

「どうした?」

「大事なこと忘れてた!!」
慌てたようにそう言うミルクティーの瞳が、私を見るなりいたずらっ子のような笑みの形を作る。
そして、手に持っていた小さな籠をこちらへ差し出した。
「アイスティー、トリックオアトリート!」

「…やると思ったよ。はい、どうぞ」
用意していたクッキーをその籠に放り込むと、ミルクティーは不服だと言うようにまた頬を膨らませる。
…どうやら、どうしても私にいたずらをしたかったらしい。
「はぁ…じゃあ、トリックアンドトリートってことにしとくか?」

「!良いのっ!? …あ、でも…」
途端に目を輝かせたミルクティーだったが、すぐにその表情が難しいものに変わった。
最初の反応からして、いたずらをしたかったのだという見立ては間違ってなさそうだが…どうしたのだろうか。

相棒という立場の私ですら分からない感情の動きに首を傾げていると、ミルクティーは真剣に、こう呟いた。
「どんないたずらするか、考えてなかった」

「………そうか」
行動力は有り余る程あるのに、肝心なところで抜けているのは相変わらずで、本人は至って真面目なのに笑いが込み上げてくる。

笑ったりしたらご機嫌ナナメになってしまうことは目に見えていたから、何とか堪えて私もいたずらを考えることにした。
「定番なので言うと、生卵を投げたり…はもったいないよな。水鉄砲で撃つとか?」

「絶対ダメ! それだとアイスティー風邪引いちゃうでしょ!!」

「中身お湯にしたら?」

「あ、そっか……でも、着替えないといけなくなるのは一緒じゃない?」

「…………別に良くないか?」

「良くない!! もっとアイスティーの仮装見てたい!!」
どさくさに紛れて服を着替えられないかと誘導したが、ミルクティーも馬鹿じゃない。想像以上にすんなりと意図がバレてしまった。
…仮装を終了させる最大のチャンスを逃した気がする。
「も〜っ、ちゃんと考えてよ〜!」

「一応ちゃんと考えてはいたんだが……。まぁ、ミルクティーがやりたいことをやれば良いんじゃないか?」

「やりたいこと?」

「あぁ。何かないか? やりたいこととか、やってほしいこととか」
ミルクティーが私の言葉を聞いて俯き、長考し始めた。
その真剣な姿が少し滑稽に見えてしまって、また笑ってしまいそうになるのを何とか堪える。

…別にハロウィンのいたずらでなくても、言ってくれさえすれば大抵のことは叶えてやるのに…なんて言ったら、風情がないとか言われてしまうだろうか。
「ん〜…あっ! やりたいことあった!」
勢いよく顔を上げたミルクティーのキラキラと輝く瞳が、私にまっすぐと向けられ、無邪気な笑みの形を作る。
 
「アイスティーと、ずーっと一緒にいたい!!」
 
────時が止まったような気がした。

分かっている。ミルクティーは私の想いを知らない。私の中に燻る醜くて穢い感情を、この子はきっと理解できない。
ミルクティーが一緒にいたいのは「相棒で親友」のアイスティーで、ミルクティーが理想とする未来は私が描く理想像とはかけ離れたものだ。

全部分かっているはずだ。希望だってとっくの昔に捨てたはずだ。なのに。
(…どうして、こんなに辛いんだ)
心臓が痛いくらい高鳴って、苦しくて。
疾うの昔に抹殺したはずの理想像が何故か今更浮かび上がってきて、また強く心臓が脈打った。

その鼓動に滲むものが彼女に対する申し訳なさなのか、己の浅ましさに対する怒りなのか、はたまた別のものなのかは分からないけど。
(…ハロウィンは、死者が現世に戻る日)
死者が戻って来るならば、死んだ想いだって戻って来てもおかしくないのかもしれない。
分かっている。そんな都合のいい話があるわけがなくて、実際は私がただ愚かであるだけだと。

………それでも。
「…アイスティー、どうしたの?」

「ふっ……いや、何でもないよ?」

「何で笑うの!? 私おかしいこと言ったっけ!?」
案の定ご機嫌ナナメになってしまった相棒の頭を撫でで宥め、またくすりと笑う。
「良いよ。ずっと一緒にいよう」

「…! うんっ!」
その少し怒ったような顔も笑顔も愛おしく思ってしまうことを。愛しい君を一番近くでずっと見ていたいと願ってしまうことを。今日だけで良いから。

明日からは、また君の"相棒"に戻るから。
(…今日だけ、許して)
天使のような笑顔を浮かべるミルクティーを見つめて、胸に燻る想い呪いを、そっと抱き締めた。
ハロウィンくらいほのぼのしたものを書こうと思ってたのに………(遠い目)

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