前の話
一覧へ
次の話

第19話

第四章 2
293
2025/06/29 04:21 更新
─────荒廃した世界。
この世界がこんなに崩れてしまったのは、僕が「聖人」と崇められるようになってしばらく経った頃。

この宗教では、数十年に一度の金環日食・皆既日食を「神の指輪」と呼んで、その日には洗礼と美化された惨劇がいっそう激しくなる。




この前の金環日食は、今からちょうど一年前。
そこから、いつもは数日で収まるはずの“洗礼”が日に日に激しさを増して行って、世界にはもうほぼ人間はいないだろう。
リョウ
………
僕は今、比較的綺麗なビルの屋上にいた。
どこを見渡しても崩れた建物に電気のつかない信号、色々な街の生きた証だけが刻々と残る荒野。

遂に大きな武器を使った暴動が起きたり、各地でそれなりに大きな地震が起こったり。
色々なことが重なってしまえば、たった一年でも残酷に街は死ぬ。




けれども死んでしまった街たちは、まるで違う世界に迷い込ませたように僕の心を掴んだ。
不思議な魅力があるのだ。ぼろぼろで人もいないしんとした場所なのに。






僕はこの壊れた世界を旅していた。
死にきれなかった人がいると困るなと思ったから。


幾つもの街だったものを渡り歩いて、数人の人に会った。
その人たちはこぞって僕に「殺してくれ」と請うてきた。
それは僕にとってもはや日常でしかなかったから、顔なんて覚えていない。


僕の旅の中で唯一印象に残っているのは、1人の少女の姿。
それは、僕がとある街に足を運んだ時のことだった。
自然のたくさん残る街。とても美しい街だった。
リョウ
………?

何か音が聞こえた。
風の音とも動物の声とも違う、人間がいないと出せない音。
リョウ
楽器……………?
音のする方へ足を進める。
近づいていくと、どうやらピアノの音らしいということがわかった。

曲名は分からないけれど、荒れた街と僕の心へ染み込むような音色。
彼女が見えるところまで歩みを進めたあとも、澄んだ真っ直ぐな音色にしばし聞き惚れていた。




こんな荒廃した世界でも、音楽は人の心を掴むもので。
曲が終わるまで、彼女を見つめてただじっと立っていた。

プリ小説オーディオドラマ