夜になってもジリジリと虫の声が聞こえ、蒸し暑い空気が
漂うこの季節。
俺と主は政府本部にいた。
いつもは半年に1回、本丸の状況と刀剣男士のステータスを
知らせに行くだけなのに。
俺は主が何かやらかしたのかと思ったけど、ずっと
そばにいたんだ。そんな事は1度もしてない。
なのにどうして。
いつもと違う格好で、俺を左腰に下げてた。
政府のお偉いさん、要するに最高責任者ってやつだろう。
そいつらに呼ばれ個室に案内されると、武器は
入れられない、なんて言ってさ。
もし主が怪我をしたら、斬られたらどうしてくれる。
そんな不安が収まらなかった。
でも主は、また、優しく俺に言ったんだ。
「大丈夫だあなた、すぐ戻るから、な?」
そう言って俺を政府の者に預け、部屋へ入っていった。
何があったのか知らないが、1つ言えるのは、
主がおかしくなったのは
この日からだ。
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:台所
台所につくと、石切丸さんと鳴狐さんがいた。
2人がなんでここにいるのかは分からなかったけど、
一期さんが声をあげた。
そう言われて鳴狐さんの方を見ると、いつも一緒にいる
キツネさんが今日はいなかった。
前、たまに居なくなると鳴狐さんから教えてくれた事が
あった。
大体、こんのすけさんと一緒にいるって。
今日もそうなかな。
ついこの間、こんのすけさんとキツネさんが一緒に
縁側で日向ぼっこしてるのを見たから、ありえない話では
なかった。
主さんも、買い物に行くなら一言かけてくれても
いいのにな。
一旦話が終わると、石切丸さんが僕らに問いかけた。
そう言って、骨喰さんは僕の頭を優しく撫でてくれた。
いきなりだったからびっくりしたけど、嬉しくて
恥ずかしくて。
それに続き、一期さんも僕の肩にそっと手をかけた。
また、石切丸さんにも頭をぽんぽんと撫でられて。
彼らの手は力ずよくて、僕より大きくて、すごく暖かい。
宗三兄さまにしてもらった時と同じ気持ちになる。
安心して、嬉しくて。
もっと頑張ろうって、思えるの。
お菓子作りをするための道具を用意しながら、骨喰さんが
言った。
鳴狐さんも、静かに頷いた。
石切丸さんはそう言い、小麦粉やらボウルやら入っている
棚を開けて、中くらいの箱を1つ、取り出した。
石切丸さんが取り出したあの箱、どこかで見たことが
あったから、つい声を出してしまった。
でも、食べたことあるのかい、と優しく問いかけてくれて。
意外と思うのは間違いない。
普段、伊達派以外の刀剣男士と話をしない大倶利伽羅さんが
街に行ってきたからおみやげと僕にくれたのがそのお菓子
だった。
まだ宗三兄さまも顕現してなくて、本丸にも今みたいに
たくさん人数がいなかった時。
そのもらったお菓子を静まり返る自分の部屋で食べた。
僕は鯰尾さんの質問に、あの時くれた事を思い出しながら
ぽつぽつと話始めた。
大きさはパクッと食べやすい1口サイズ。形は丸くて。
1つ1つ袋詰めになってて、縁が茶色のちょこと、ピンク色の
いちご味、その2種類があった。
どっちも甘くて、ちょっとすっぱくて。
美味しかったのを、覚えてる。
多分そうなのだろう。
あのお菓子には少しばかり、れもんが入っていたから
すっぱかったんじゃないか。
一期さんの言葉を聞いて、納得した。
すると石切丸さんが、箱をそっと開けた。
箱から人数分のお菓子を取り出して、僕らに言った。
鯰尾さんと骨喰さんはもらったお菓子の袋を開けて、
パクッと1口で食べた。
余程美味しかったのだろう。笑顔がキラキラだった。
そんな2人を見て、一期さんは嬉しそうだったけど、
やっぱり少し不安だったみたいで。
言われるがまま右手をそっと出すと、さっきみんなが
食べていたお菓子の袋が2つ、置かれた。
僕はなんで2つくれたのか分からなかった。
すると、石切丸さんは言った。
僕だけじゃなくて、宗三兄さまの分までくれるなんて
思ってもいなくて。
すごく、嬉しかった。
僕は明日でも明日じゃなくても、この人達と作れれば
いつでもよかった。
そう、嬉しそうに鳴狐さんは頷いた。
少しして、おやつの時間までまだあったから僕らはそのまま
台所を出て、縁側で日向ぼっこをする事にした。
その間、主も帰ってくるかもしれないし。
舞穪さんも、もしかしたら目が覚めるかもしれないし。
︰廊下
日の当たりがいい所を知ってる、みんなに伝えてから、
僕はそこまで案内していた。
少しして、近くから誰かが倒れる音が聞こえた。
最初は僕も、誰かが転んだ音だと思ってた。
皆より少し前を歩いてた僕は、気になって小走りで
見に行った。
まさか、音の原因があの人だとは思ってもなくて。
鳴狐さんと一緒に少し先にある角を曲がると、
そこには舞穪さんが壁に手をついたまま、座り込んでいた。
なんで、どうしてここにいるの。
まだ体調が良くなってないって、燭台切さんが言ってて、
長谷部さんもあんなに心配してたのに。
なんで。
とっさに彼の元へ行くけど、僕は医療の知識は持ってない。
だから、今舞穪さんに何をしてあげればいいか
分からなかった。
すると鳴狐さんが、声をあげた。
その場で立ち上がって、僕は一期さんの元へ走った。
息を切らして、慌てて走ってきたから驚いたのだろう。
心配の声をかけてくれて。
混乱するのも、当たり前。
本来なら部屋で治療をしてるのだから。
少し不安そうな顔をして、骨喰の方を見ると一期さんは
言った。
何とも言えない表情をして骨喰さんは返事をする。
その様子を見て、鯰尾さんが骨喰さんの肩に軽く手を
置いた。
安心した面持ちでそう言い、一期さんが僕の方を向いた。
僕は一期さんを連れて、舞穪さんの元へ急いだ。
なんであんなところにいたのか。
まだ体調が悪いんじゃないのか。
思う事はたくさんあった。けど、あのまま舞穪さんが
折れてしまったら元も子もない。
今度は僕が、絶対に助けるの。
だってまた、元気な姿を見たいから。
また、一緒に出陣したいから。
舞穪さんと宗三兄さまと、お菓子を作りたいから。
まだ、
謝れていないから。
𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭


















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。