第7話

film 7
582
2025/06/07 09:00 更新
あなた
ねえ!ここの映画館で放映するってほんと?!
金曜。
いつもと同じ時間。

珍しくカウンターに飛びついてきた
あなたは走ってきたのか、
頬を赤くしていて、前髪が汗で額に張り付いている。

子どもか、と思いながら笑ってその髪を退けると
慌てたようにぱっと離れていってしまった。
ヨンジュン
ヨンジュン
ほんと、笑
ヨンジュン
ヨンジュン
俺の全力おねだりの賜物、
しかも時間は金曜最終放映時間♡
あなた
最高…。
ヨンジュン
ヨンジュン
ま、そのせいで俺は6月期も
この時間帯勤務が決定したんだけどね…!!!
あなた
それは…ご愁傷さま…
そうやってみんな俺をいじめるんだ…!と
泣き真似をしてみせると
「えーんヨンジュナ泣かないで〜」と
おちょくるような文言が飛んでくる。



いつの間にかお互い「ヨンジュナ」「あなた」と
名前を呼ぶようになってから日も浅いのに、
心を許したように大きく口を開けて笑う顔がかわいい。

いつものようにポップコーンを用意して、
座席の選択をする。

今日はホラー?珍しいな。
ヨンジュン
ヨンジュン
はい、先にチケットと〜
ヨンジュン
ヨンジュン
ポップコーンに烏龍茶!はい!
あなた
ありがとう!
ヨンジュン
ヨンジュン
ん、またね
いつからか俺らの合言葉は「またね」になっていた。

「またね」は「また今度ね」とか
「また来週ね」とかじゃなく
「またあとでね」。



掃除をしながら話していると、
いつの間にか熱中して手が止まっている。

それがルーティンと化していて、
自分でもびっくりするくらい酷く自然に慣れていた。

落ち着く香りはあなたの柔軟剤の匂い。



石鹸みたいな爽やかで
ほんの少しの華やかさを纏った香りが
鼻腔を抜けていく。

人のいなくなったカウンターで1人、
大袈裟なまでに溜息をつきながら
顔を覆ってしゃがみ込んだ。
.
えーぃヨンジュナ、顔真っ赤!笑
.
噂の好きピ♡今日も来たね〜♡
ヨンジュン
ヨンジュン
だあああッ!!!五月蝿いし!好きピもう死語だし!
.
「ん、またね」だってカッコつけやがってこの〜!
.
付き合う直前、一番楽しいよな〜!
ヨンジュン
ヨンジュン
だからっ、そんなんじゃないですってば!
…先輩たちからからかわれるようになったのも
最近の習慣に追加。
ヨンジュン
ヨンジュン
今日のはどう?面白かった?
あなた
うんっ!
あなた
ヨンジュナも恋愛映画見ればいいのに
ヨンジュン
ヨンジュン
俺はパス、笑
ヨンジュン
ヨンジュン
むず痒くて見てらんないわ笑
あなた
えー残念…
ヨンジュン
ヨンジュン
そんなに言うなら今度おすすめ教えてよ笑
あなた
待って、おすすめ探す!
何やらノートを取り出してパラパラしだした。

気になってさっさと上段の掃除を終わらせると、
あなたの斜め後ろの席に腰掛けた。

覗き込むとスクラップブックのようになっている。

監督の名前からあらすじ、
フライヤーの縮小コピーまでがズラッと並んでいて、
横にはその評価も綺麗な字で書いてある。
ヨンジュン
ヨンジュン
うわっ、すご
あなた
え、あ、ガチすぎてキモいよね…
ヨンジュン
ヨンジュン
いや、すごいじゃんこんなんできるの
ヨンジュン
ヨンジュン
俺も器用だったらやってるわ
覗き込んで字を目でなぞる。
これはね…と説明が始まったので
ノートを受け取って本格的に読み始めた。
あなた
xxxxxって映画知ってる?
ヨンジュン
ヨンジュン
あー、少女漫画原作の?
あなた
そう、その監督さんが1から作った映画でね
あなた
リアルすぎて泣くよ
ヨンジュン
ヨンジュン
泣く?ほんとに?笑
あなた
絶対保証
ヨンジュン
ヨンジュン
涙の絶対保証なんて初めて聞いたんだけど笑
ヨンジュン
ヨンジュン
でも観ず嫌いしてたかも、観てみるわ
満足気に上にあがる頬がもちもちしててかわいいな、
つついてみたらどんな反応するんだろう。

ノートから視線を上げるたびに必死に話す、
楽しそうな目と目が合う。



会うたび愛しくなる。

この瞳が俺だけのものだったらいいのに、
そう思ってしまう。

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