金曜。
いつもと同じ時間。
珍しくカウンターに飛びついてきた
あなたは走ってきたのか、
頬を赤くしていて、前髪が汗で額に張り付いている。
子どもか、と思いながら笑ってその髪を退けると
慌てたようにぱっと離れていってしまった。
そうやってみんな俺をいじめるんだ…!と
泣き真似をしてみせると
「えーんヨンジュナ泣かないで〜」と
おちょくるような文言が飛んでくる。
いつの間にかお互い「ヨンジュナ」「あなた」と
名前を呼ぶようになってから日も浅いのに、
心を許したように大きく口を開けて笑う顔がかわいい。
いつものようにポップコーンを用意して、
座席の選択をする。
今日はホラー?珍しいな。
いつからか俺らの合言葉は「またね」になっていた。
「またね」は「また今度ね」とか
「また来週ね」とかじゃなく
「またあとでね」。
掃除をしながら話していると、
いつの間にか熱中して手が止まっている。
それがルーティンと化していて、
自分でもびっくりするくらい酷く自然に慣れていた。
落ち着く香りはあなたの柔軟剤の匂い。
石鹸みたいな爽やかで
ほんの少しの華やかさを纏った香りが
鼻腔を抜けていく。
人のいなくなったカウンターで1人、
大袈裟なまでに溜息をつきながら
顔を覆ってしゃがみ込んだ。
…先輩たちからからかわれるようになったのも
最近の習慣に追加。
何やらノートを取り出してパラパラしだした。
気になってさっさと上段の掃除を終わらせると、
あなたの斜め後ろの席に腰掛けた。
覗き込むとスクラップブックのようになっている。
監督の名前からあらすじ、
フライヤーの縮小コピーまでがズラッと並んでいて、
横にはその評価も綺麗な字で書いてある。
覗き込んで字を目でなぞる。
これはね…と説明が始まったので
ノートを受け取って本格的に読み始めた。
満足気に上にあがる頬がもちもちしててかわいいな、
つついてみたらどんな反応するんだろう。
ノートから視線を上げるたびに必死に話す、
楽しそうな目と目が合う。
会うたび愛しくなる。
この瞳が俺だけのものだったらいいのに、
そう思ってしまう。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!