産屋敷邸の一角、緩やかな日差しが降り注ぐ中庭。
結界の中とはいえ、ある程度の自由が許された鬼の少女は、監視の目を感じながらも、久しぶりに穏やかな空気の中で座っていた。
――すると。
元気いっぱいの声と共に、鮮やかな桃色の羽織が風を切って現れる。
彼女の手を握って、ぽろぽろと涙をこぼす甘露寺。
少女の中で、じわりと心があたたかくなった
その夜、少女はいつものように、産屋敷邸の裏庭にある竹林の手入れを手伝っていた。
結界の中とはいえ、ただ閉じ込められているのではなく、「できることをしたい」と言い出したのは彼女自身だ。
――風が、ふと止む。
気配が変わった。竹の影の間に、何かがいる。
次の瞬間、いつの間にか背後に誰かが立っていた。
振り向くと、そこにいたのは――霞柱・時透無一郎。
瞳が、無感情とも無関心ともつかない光をたたえて、彼女を見ていた。
無一郎は頷く。
その声には、怒気も、興味も、敵意も――ない。
だからこそ、逆に冷たく感じられる。
彼女は自然と、身をこわばらせていた。
その一言に、少女の心のどこかが、ぴくりと震えた。
無一郎は首を少し傾ける。
無一郎はしばらく黙っていた。
竹の葉が、さらさらと風に揺れる音だけが響く。
彼の言葉に、少女は目を見開いた
無一郎は、ふわりと微笑んだ。
ほんの一瞬――霞のように淡くて、でも確かにそこにある“あたたかさ”。
少女の胸の奥に、何かが落ちてくる。
それは重たくて、でも心地よくて――まるで、霞が晴れていくような感覚だった。
そう言って、無一郎はふわりと竹の間に消えていった。
その後ろ姿を見送りながら、彼女は初めて、ひとりきりで笑っていた。
ある午後、訓練場の裏。
霞柱・時透無一郎が、ひとり木刀を振っていた。
無一郎は木刀を差し出した。
私は、ためらいながらも木刀を握る。
彼女の手は細く、冷たい。だが――力は、確かにあった。
ふたりの木刀が、竹林の音に混ざって静かに響いた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。