ぐったりと眠るあなたを
これ以上ないほどの優しさと
甘い愛で包み込むと誓い合った夜
静まり返ったリビングで
ふたりは改めてお互いの決意を確かめ合っていた
もう二度と、あんな顔をさせない
自分たち以外の熱や傷が掠めることすら許さない
心の底からそう誓ったその時だった
ピンポーン……
不意に響いた電子音が静かな部屋の空気を切り裂く
それに続くように
ドンドン!と激しく扉を叩きつける乱暴な音が鳴り響いた
「……なんだよ、この時間に」
なるせが眉をひそめ不機嫌そうに舌打ちをする
しかしその直後
ガチャガチャと鍵を開けようとする焦った気配と
何度も暗証番号を打ち直す電子音が響いてきた
この家は、葛葉も普段なら自由に出入りできる
暗証番号を知っている場所だった
だが、叶はあの日、遊園地での一件があってから
すぐさまセキュリティの暗証番号をすべて変更していた
何度正しいはずの番号をいれても
「エラー」を告げる冷たい電子音が鳴り響くだけ
扉の向こうで、葛葉が激しい焦燥感と
パニックに駆られているのが手に取るように伝わってくる
「……開けろよ! なんでだよ、開けろって!!」
掠れ、震えた声がドア越しに聞こえてきた
叶となるせは無言のまま立ち上がり
インターホン画面へと歩み寄る
モニターに映し出されたのは
普段の余裕や傲慢さが綺麗に剥ぎ取られた
惨めなほどに顔面蒼白な葛葉の姿だった
「──何の用?葛葉」
叶が低く
一切の感情を含まない冷たい声でインターホン越しに言い放つ
その画面に映る冷徹な相棒の姿に気づき
葛葉は縋るようにモニターへと顔を近づけた
「叶! なるせもいるんだろ!? 頼む、開けてくれ……! 話を聞いてくれ、俺はただ……っ!」
「話?」
なるせが冷ややかに鼻で笑う
その瞳には、かつての仲間に対する情けなど一欠片も残っていなかった
「お前が何をしたか、自分で分かってないわけないよね。面白半分で他の女を連れ回して、あなたにあんな絶望的な顔をさせておいて……今更どの面下げてここに立ってんだよ」
「ちがっ、違うんだ……! あんな女どうだってよかったんだよ、ただお前らとあいつが楽しそうにしてるの見て、頭がおかしくなりそうで……っ!」
「頭がおかしくなったからって、大事な人を傷つけていい理由にはならないよ」
叶の声音は氷のように冷たく、容赦がなかった
「もう遅いよ葛葉。お前が自分の手で何を踏みにじったのか、よく考えるんだな。……二度とその面見せるなよ」
「待て! 頼む、謝らせてくれ! 一度だけでいいからあなたに……っ! 許してくれよ、頼むから……!!」
モニターの向こうで、
葛葉は泣きじゃくりながらドアに両手をつき
崩れ落ちるようにその場に膝をついた
かつて絶対的な自信を纏っていた男が
見る影もなくボロボロになって許しを乞うている
だが、一度壊してしまった信頼と
冷め切ったふたりの怒りがそれで和らぐはずもなかった
「……帰れ」
静かに絶対的な拒絶を込めて叶が通話を遮断する
モニターの映像がプツリと暗転し
リビングには再び冷たい静寂が戻った
扉の向こうで絶望に打ち震える男の声など無視するように、叶と なるせは背筋を翻す
自分たちを求めて眠る愛しい女の待つ寝室へと
ふたりは再び歩き出した






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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。