夏休みが終わって、9月が始まった。
教室の窓から入る風は、
少しずつ秋の気配を帯びていた。
教科書やノートを広げながら、
俺は、何度も時計の針を見てしまった。
(…まだ、かな…)
帰りのホームルームが終わると、
俺は少し早めに生徒会室へ向かった。
秋の文化祭の準備を兼ねた会議があると、
連絡が来ていたからだ。
生徒会室のドアを開けると、
すでに、全員が集まっていた。
「お、らぴす」
「らぴすもきたし、
さっそく、会議始める?」
らいと先輩、ロゼ先輩が続けて
言葉を発する。
「そうするか」
会議は文化祭の出し物や、看板作り、予算の話が
中心だった。
他のみんなが冗談を言って笑い合う中、
俺は、メモを取りながら、先輩の横顔を時折盗み見た。
先輩は真剣に話を聞き、
時折シャープな指摘をしていた。
あの夜のどこか甘い雰囲気は一切なく、
今の先輩は「頼れる生徒会長」の顔をしている。
「この部分、意見あるやついるか?」
先輩が全体に向けて問いかけた。
俺が少しだけ手を挙げると、
先輩はすぐにこちらを振り返った。
「えっと……もっと明るい色を足した方が、
来場者が目を引くと思います」
俺が答えると、先輩は小さくうなずいた。
「なるほどな、さすが。
じゃあ、その方向で調整しよう。
後で一緒に色選び手伝ってくれるか?」
「……はい、喜んで」
他の生徒会メンバー達は
「お、息が合ってるな」なんて笑っている。
シンプルなやり取りだけど、
先輩とこうして、通じ合えている時間が、
胸の奥をじんわりと温めてくれた。
__
会議が終わったあと、
残った数人で片付けをすることになった。
資料を棚に運んでいると、
先輩がすぐ近くにやってきて、俺の肩をポンと叩いた。
「夏休みも色々付き合ってもらったのに、
学校始まって、早々、また手伝わせてしまって悪いな。
ありがとな」
「いえ、先輩の役に立てるなら楽しいですから」
俺が笑顔で返すと、先輩は
「お前は本当にいい後輩だな」と言って、
少し照れくさそうに頭を掻いた。
「夏祭り、楽しかったな」
先輩が、周りに聞こえないくらいの低い声で
耳元に囁く。
「……はい、俺もです」
「特に、花火」
先輩の真っ直ぐな視線に、俺は声が出せなくて、
ただ、赤くなった顔を隠すように、
何度も大きく頷いた。
「よし、じゃあ早くこれ終わらせよう。
終わったら、二人でジュースでも買いに行こうな」
先輩は嬉しそうに目を細め、
また、楽しそうに資料をまとめ始めた。
窓の外からは、部活動に励む生徒たちの声と、
少し涼しくなった秋の風が、聞こえてくる。
まだ『ただの先輩と後輩』という名前のままだ。
__だけど、夏が終わっても、俺たちの距離は、
あの夏祭りよりも、確実に近くなっていた。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。