「まもなく終点、中華街に到着いたします。お忘れ物のないよう、お降りください。」
無機質な音声が電車の到着を告げる。空気の抜ける音と共に車体が傾き、ドアが空いた。
目的地、中華街へ到着したのだ。
中華街を3人で歩いている最中、零が思い出したように呟いた。電車の中で血潮が説明していたのだが。見るからに零は寝ていたし、聴いていなかったのだ。
考えるだけで日花の下腹部を冷えたような感覚が襲う。そう、これは人見知りの日花にはかなりの大仕事である。緊張でどうにかなりそうだ。そう、まさに卒倒しそう。失敗したらどうしよう。荷が重い……。などと考えているうち、血潮の説明が終わる。
要約すると、ターゲットは兄妹で年齢は20代前後とのこと。二人は何か“特別な力”を持っているとの噂が入っている。
ふと思い出したように零が言い放った言葉に、血潮が苦い顔で答える。彼らがやっているのは決して慈善事業ではないのだ。世界良くしようなんざ思っていない。彼らの目的は一つ、生きる事。各々細かい理由はあるだろうが、根本はその一つである。
血潮の的確な指示に二人が頷く。見知らぬ兄妹と3人の、一方的な鬼ごっこの始まりである。
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それから暫くして。零は風情溢れる街を堪能していた。見渡すかぎりの美味しそうなご飯。太陽の光を反射して、それは美味しそうに輝くシュウマイを頬張り……、周囲に気取られぬようにターゲットを探す。
しかし20代の男女など溢れかえっているのだ。知っているのは20代の男女ということだけ。あとは能力者。いくら探しても無理というものだ、と零は笑い、再び足を動かす。
暇だ、あまりにも。危険とはいうが、路地にでも入ってみようか。今の零には謎の力があるのだ。生身の人間など瞬殺にできるほどの。
路地裏を覗き、気になったら入るようにしてから早数分。零の耳に、金属が床を転がる音がとどいた。
零は思考する。例えばそれが、ネズミだったら?最悪だ。別に嫌いでこそないが、己の労力と好奇心の末にいたのがネズミなど、興醒めもいい所である。ならば、双子だったら?あれ、兄妹だっけ。まあいいや。早くここを抜け出して、アジトへ帰れる。帰ってしまえば愉快な仲間がいるのだから退屈はしない。最高。では、悪い大人だとか悪いお兄ちゃんだとしたら?別に兄ちゃんだった分にはどうでもいいが、悪い大人は流石に周囲に迷惑がかかる。でも気になる。正直めっちゃ見たい。自分の実力を確かめてみたいものだ。
という事で、それは長い思考の末、音のなる方へ踏み出したのだ。
間抜けな声を出した零の口を、男と思わしき手が塞ぐ。零の腹に腕を回し、行動を制限しているようだった。気配からして二人はいそうだ。ただしもう一人は気弱そう。もう一人に従っている、という感じがモロに出ている。双子のやつじゃん、つまんな。わるい大人ならもっと筋肉付いてるか賢い方法取りそうだしね。そう口の中でつぶやく。とはいえ、怯えるふりをして相手の出方を伺うのも面白い。好奇心には逆らえない、逆らいたくない。
我ながら完璧、と心の中で高笑いする。不安げに垂れた眉、裏返った声、震える手。少しどもるのも大切だ。日花の真似である。
政府ではないなぁ、とせせら笑う。うちは完全に個人事業だからね、なんて心でジョークを飛ばし、反対の言葉を言う。
うっわー、これほんとにいう事あるんだー。えぐい、はーい♡とか言いたい……などと思いつつ、そろそろ飽きてきたので攻守交代でもしようかと思っていたそのとき。
ゴッ、カンカンカン、カラカラカラカラ……と金属のゴミ箱が転がる音が聞こえた、と思った次の瞬間。
あたり一面が、見覚えのある黒で覆われていた。
気怠けに言い放った少女の声。奥の暗闇から、ゆっくりと紫髪の少女が歩いてくる。
少女は腰まである紫の髪を一房だけ細い指に巻き付けて、上目遣いに言った。
それを聴いても少女は眉ひとつ動かさない。この返答が来る事をわかっていたのだろう。
あっけらかんと言った零に、少女はにっこり笑った。
零もにっこり笑い返す。
流石に居た堪れなくなったのか、零を拘束していた男が手を解き、口を開いた。
紫髪の少女が悪戯っぽく言い、零の目も輝く。なんせ懸賞金だ、余程のことがない限りつかないだろう。
姿を現した男が言った。青みがかったグレーの瞳は不安に揺れている。
それを聞くが否や、男とその妹は紫髪の少女から逃げ出そうとして____失敗した。
後退り逃げようとする彼らを黒い靄が包み込み、気道を確実にしめていく。
零が紫髪の少女に横目で聞いた。少女もなんともないように返す。
言いながら、零の片目に翠の炎が宿る。あ、と思った瞬間には二人を拘束していた靄は砕け散っていて。
そう言った零の両脇には、兄妹が抱えられていた。
少女がそういった瞬間_____、零の口から鮮血が吐き出された。
無理です疲れました……。



















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。