主演に決まってから、1日。
教室に入った瞬間から、嫌な予感しかしなかった。
朝から飛んでくる視線。
俺はカバンを机に置きながら苦笑する。
教室に笑いが広がる。
……昨日からこれや。
いや、別に悪意がある分けちゃうけど、
みんな面白がってるだけなんは分かる。
そのたびにちょっとだけ照れくさい。
近くから聞こえた落ち着いた声に振り向く。
あなたの名字さんだった。
肩まで伸びた髪を耳にかけながら、自分の席へ向かって歩いてくる。
自然に返事すると、
周りがまた笑う。
ツッコむと、ライが肩をふるわせて笑っていた。
そんなやりとりをしているうちに、ホームルームのチャイムが鳴った。
担任が教室に入ってくる。
いつも通りの挨拶のあと、先生は教卓の上に紙の束を置いた。
教室がざわつく。
先生は人数分の冊子を前から回し始めた。
白い表紙。
真ん中にはシンプルにタイトルだけが書かれている。
『君と歩く帰り道』
誰かが言う。
俺は何となくページをめくった。
配役一覧。
主演
男 ー マナ
女 ー あなた
自分の名前が印刷されているだけで、なんか変な感じがした。
先生が言う。
教室は一気に静かになった。
ページをめくる男だけが響く。
俺も読み始める。
放課後。
帰り道。
他愛も無い会話。
笑いあう二人。
恋愛劇ってきいたから、もっと甘ったるいもん想像してた。
少し安心しながらページをめくる。
そして、
思わず声が漏れた。
ライが覗き込んでくる。
俺はある一行を指さした。
「二人は顔を見合わせ、そっと手を繋ぐ。」
数秒、沈黙。
ライが吹き出した。
即答した。
その時、
小さな声が聞こえた。
あなたの名字さんも同じページを見ていた。
少しだけ目を丸くして、
と、小さく笑う。
なんやろ。
その笑い方が、思ったより落ち着いていて。
逆に俺だけ慌ててるみたいやった。
なんとかそう返すと、
あなたの名字さんは素直に頷いた。
その返事をした瞬間、
学級委員が教卓の前に立つ。
教室から「おー!」と声が上がる。
委員がにっこり笑う。
一瞬、教室が静まる。
次の瞬間、
一気に盛り上がるクラス。
俺は思わず立ち上がった。
教室中に笑い声が響く。
その横で、
あなたの名字さんも、小さく笑っていた。
……その笑顔を見て、
ほんの少しだけ。
なんて思ったことは、
まだ、誰にも言わないでおこう。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。