第2話

#02
47
2026/08/05 03:20 更新
主演に決まってから、1日。
教室に入った瞬間から、嫌な予感しかしなかった。
クラスメイト
あ、主演コンビ揃った。
クラスメイト
主演コンビじゃーん!
クラスメイト
おはよー
朝から飛んでくる視線。
マナ
ちゃうちゃう
俺はカバンを机に置きながら苦笑する。
マナ
まだ何もしてへんから
クラスメイト
昨日決まったやん
マナ
だから何やねん
クラスメイト
恋人役。
マナ
そこ強調せんでええ
教室に笑いが広がる。

……昨日からこれや。
いや、別に悪意がある分けちゃうけど、
みんな面白がってるだけなんは分かる。
そのたびにちょっとだけ照れくさい。
あなた
おはよ
近くから聞こえた落ち着いた声に振り向く。
あなたの名字さんだった。
肩まで伸びた髪を耳にかけながら、自分の席へ向かって歩いてくる。
マナ
あ、おはよ
自然に返事すると、
クラスメイト
ほら
クラスメイト
もう普通に挨拶してる
クラスメイト
昨日より距離縮まったじゃん。
周りがまた笑う。
マナ
いや、挨拶くらいするやろ!
クラスメイト
必死だねぇ
マナ
必死ちゃうわ!
ツッコむと、ライが肩をふるわせて笑っていた。
ライ
朝から元気だねぇ
マナ
誰のせいや思てんねん。
ライ
クラスのみんな。
マナ
その中にお前も含まれとる。
そんなやりとりをしているうちに、ホームルームのチャイムが鳴った。
担任が教室に入ってくる。
担任
はい、おはよう
いつも通りの挨拶のあと、先生は教卓の上に紙の束を置いた。
担任
文化祭の台本、できたぞ。
教室がざわつく。
クラスメイト
もう出来たん?
クラスメイト
早!
先生は人数分の冊子を前から回し始めた。

白い表紙。
真ん中にはシンプルにタイトルだけが書かれている。


『君と歩く帰り道』

クラスメイト
ええタイトルやん。
誰かが言う。
俺は何となくページをめくった。

配役一覧。
主演
男 ー マナ
女 ー あなた
自分の名前が印刷されているだけで、なんか変な感じがした。
担任
今日は読み合わせだけやからな。
先生が言う。
クラスメイト
まずは自分の役を読んでみて。
教室は一気に静かになった。
ページをめくる男だけが響く。
俺も読み始める。

放課後。
帰り道。
他愛も無い会話。
笑いあう二人。
マナ
(……思ったより普通やな)
恋愛劇ってきいたから、もっと甘ったるいもん想像してた。
少し安心しながらページをめくる。

そして、
マナ
……え
思わず声が漏れた。
ライ
どうしたの?
ライが覗き込んでくる。
マナ
いや………。
俺はある一行を指さした。
「二人は顔を見合わせ、そっと手を繋ぐ。」
数秒、沈黙。
マナ
……あるやん。
ライ
あるね
マナ
手ぇ繋ぐやん。
ライ
繋ぐね
ライが吹き出した。
ライ
良かったじゃん。
マナ
何がや
ライ
主演らしい仕事。
マナ
いらん
即答した。
その時、
あなた
……ほんとだ
小さな声が聞こえた。
あなたの名字さんも同じページを見ていた。
少しだけ目を丸くして、
あなた
手、繋ぐんだね。
と、小さく笑う。
なんやろ。
その笑い方が、思ったより落ち着いていて。
逆に俺だけ慌ててるみたいやった。
マナ
ま、まあ演技やし。
なんとかそう返すと、
あなた
うん
あなたの名字さんは素直に頷いた。
あなた
ちゃんと練習しないとね。
マナ
……せやな
その返事をした瞬間、
クラスメイト
よーし!
学級委員が教卓の前に立つ。
クラスメイト
来週から本格的にリハーサル始めるよ!
教室から「おー!」と声が上がる。
クラスメイト
主演二人!頑張ってね!

クラスメイト
ちなみに。
委員がにっこり笑う。
クラスメイト
手を繋ぐシーンもちゃんと練習するから
一瞬、教室が静まる。
次の瞬間、
クラスメイト
おぉー!
クラスメイト
頑張れ主演!
クラスメイト
青春や!
一気に盛り上がるクラス。
マナ
いや待て待て!
俺は思わず立ち上がった。
マナ
安心できる要素どこやねん!
教室中に笑い声が響く。
その横で、
あなたの名字さんも、小さく笑っていた。

……その笑顔を見て、
ほんの少しだけ。
マナ
(主演も悪くないかもしれへんな)
なんて思ったことは、
まだ、誰にも言わないでおこう。

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