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第1話

プロローグ
110
2025/11/03 02:10 更新




カウンター席で、焼き鳥片手に私は静かにグラスを傾けていた。


「はぁ…どうしよう。」


手に持った生ジョッキを机に押し付けるように置いて、賑わう声にも負けないくらいのため息を吐く。



事の発端はーー



『別れたい?』



突然の一言に、思わず目を見開く。


『え、どうして…?』


胸がぎゅっと締め付けられ、頭が真っ白になる。
彼は俯いたまま、小さく呟いた。


「ごめん…他に好きな人ができちゃったんだ。」



『…は?』

言葉が出ない。まさか、と思ったけれど、頭の隅で薄々気づいていた。
あの日、LINEの内容、あの怪しい態度――全部。


「もう戻れない。ごめん。」
その言葉に、胸の奥が締め付けられる。
涙をこらえながら、俯いたまま、どうしても言葉が出なかった。





ーこうして私は、元カレとの気まずさから逃れるように、いつもの焼き鳥居酒屋のカウンターに座っていた。


1ヶ月もしたら友達の結婚式が待っている。幸せそうな二人を祝福するはずなのに、、、隣には元カレ。
「あなた、久しぶり…」なんて言われたら、、もう結婚式どころではない。
浮気しているのには薄々気づいていた。
いつ別れを切り出されるかなと呑気に考えていたが、いくらなんでも招待されている結婚式の直前に言うものか?と。



ふと、隣に人が座った気配がして、自然と視線を向ける。と、




『(わ、渡辺くん!?)』


視線の先には、会社で何度か見かけたことがある、別部署の翔太くん。
すらりとした身長に、整った顔立ち。自然に目を引く仕草と余裕のある笑み――

恋愛に疎い私でも風の噂で“モテ男”として名前だけは知っていた。


でも、何故こんな店に渡辺くんが?
しかも一人で。


思わず体が強張り、手元のジョッキをぎゅっと握る。


でも、向こうは私のことを知っているはずがない。
だって部署も違うし、話したことも1度もないはず。
そう思った瞬間少し安心した。



――でもその安心は、一瞬で崩れ去った。







渡「…あ。営業部の」


ーーえ、知ってる!?


『えっあ、どどうも…山下あなたです、』

思わず口ごもり、手がジョッキに触れるたびにカタカタ小さく震える。


なぜあの渡辺翔太モテ男が、芋女を知っているのだろう

『…渡辺くん、だよね?』


渡「当たってますよ」



物腰柔らかく答える渡辺くん。
意外と話しやすいかもしれない。



渡「あなたさんはここの常連なんですか?」


『あ、うん…家近いからよく来てるね。』



渡「じゃおすすめとかないですか?俺初めて来たんで」



私は思わず顔を上げて、カウンターのメニューを指さす。

『じゃあ…ちょっと珍しいのにしてみる?ここの“しそ巻き焼き鳥”、なかなか頼む人少ないよ?』


渡「へー、そうなんすか」

渡辺くんは目を細めて、興味深そうに頷いた。


渡「じゃあ、それにします」

私も頼むと、注文した焼き鳥が次々と焼かれ、いい匂いが漂ってくる。


渡「ちなみに、僕は焼き鳥好きなんで」

渡辺くんは楽しそうに笑う。


『そうなんだ、実は私も好きです焼き鳥。』









・・

焼き鳥をつまみながら、少し会話も弾んできた。
普段だったら話もしない渡辺くんと今日はなぜか自然に会話ができている。



『そういえば、渡辺くんって彼女いるの?』


つい軽いノリで聞いてみる



渡辺くんは少し間を置いて、にっこり笑った。



渡「いや、いないですよ」




ーふと頭にひらめきが走る。



勇気を出して、私は軽く笑いながら言ってみる。


『あの、ちょっと変なお願いなんだけど…』


渡辺くんは少し眉を上げて、興味深そうにこちらを見た。

渡「変なお願い…ですか?聞いてみますよ」



私は深呼吸して、思い切って口にした。










『私と付き合ってくださいっ!』



𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝

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