こんなところでなにをしているんだろう。
そう思ってそっと肩に触れたら、あなたの下の名前ちゃんは潰れた悲鳴を上げて、大きく肩を振るわせた。
そう声をかければ、あなたの下の名前ちゃんはこちらに振り返る。
その表情は、驚きと恐怖で満ちていた。
初めて会話をしたあの日とよく似た、被食者のような目。
何か、小さな包みを大切そうに両手で持っている。
そう言って立ち去ろうとすれば、裾をくい、と引かれた。
到底人など止められないような、弱い力で、きゅ、と握られている。
顔を下に向けて、震える声でそう言うあなたの下の名前ちゃんを見て、また、少しだけ気分が昂ったような気がした。
探してる?
なにか、失くし物でもしたのだろうか。
あなたの下の名前ちゃんが、言葉に詰まった。
ゆっくりでいいよ、と声をかけ、その小さな口が開かれるのを静かに待つ。
それでこんな森の中まで。
まだ雪も積もっていて、寒いだろうに。
それに、普段なら動物だの虫だのを怖がって、一人じゃ森に入ろうともしないのに。
そこまで火急の用事があったのだろうか。
それなら、悪い事をした。
大切そうに抱えていた包みを、控えめに差し出してくる。
その包みを受け取って、訊いてみる。
なにか、ものをもらうようなことをした記憶も無いが、一体なんなのだろうか。
結ばれたリボンをシュル、と解き、箱を開ける。
なるほど、バレンタイン。
化学に秀でたあなたの下の名前ちゃんも、一緒に作業をしたのか。
そんな貴重なものを僕にくれるなんて。
嬉しいなぁ、とか思いながら、チョコレートを口に運ぶ。
甘いや、なんて言いながら、食べ進める。
あなたの下の名前ちゃんはそう言って、安心したような顔をする。
かわいらしいなぁ、なんて思いながら食べるチョコレートは、とびきり甘く、おいしく感じた。
しばらくして、あなたの下の名前ちゃんが小さく声をかけてくる。
「勢いでここまで来たので、怖くて……」と、徐々に声を小さくする。
やっぱり、怖かったんだ。
そう言って、その小さい手を引いた。
一旦、チョコレートのお礼ということにしておこう。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。