北斗side.
京「なにしてたの」
その声は怒っているわけでもなく、責めているわけでもなく、ただ悲しさを噛み締めたようなか細い声だった。
京「...言えないなら、いい」
北「……ごめん」
京「なに、ほんとに言えないことなの?」
北「いや、そういうわけじゃない…んだけど」
ふーん。とそっぽを向いてしまった。
完全に呆れさせた。
もしもこれが“嫉妬”だと言うのであれば俺はやり方を間違えた。
京「北斗が言わないなら俺が言うけど」
北「え?」
京「………………………た」
北「ん、ごめん。なんて言った?」
すると、あちらに向いていた京本が体ごと俺の方へ向いた。
ただし、視線は落とされて目は合わないけれど。
京「...正直、なんか、モヤモヤした」
北「え...それって」
“嫉妬”?
京「ばか」
北「いやストレート」
京「...俺、今めんどくさい?」
北「そんなことない。あるわけないじゃない」
そっと包み込むと、素直に背中に腕を回してきた。
北「実はね、京本に嫉妬させたかったの、俺。」
京「は?」
北「ジェシーがあんなことしてきたのは予想外だったけど」
京「いやちょっとまって、は?」
俺の行動の意を知って、腕を解こうとジタバタする京本をさらに抱きしめる。
京「まてっ、離せ!1回説教させて!」
北「いや」
京「俺はっ!……ヤキモチくらい普通に妬く」
北「え…?」
あっ。思わず、腕を解いてしまった。
今、なんて...?
いや、聞こえてはいたけれど頭が追いつかない。
京「当たり前でしょ...恋人、なんだから」
この人は、どこまで俺を堕とせば気が済むのだろう。
好きとか愛してるとかそんな単純な言葉では綴りきれない。
貴方へのこの想いはどこへ注げばいいのか。
...きっと貴方なら全て受け入れてしまうんだろうな。
俺より少し華奢な身体を寄せて、その小さなぷっくりとした唇に口付けをした。
一瞬不服そうな顔をしたが、すぐに柔らかい笑顔と可愛らしい仕返しをくれた。
京「...これからはあんましないで下さい」
北「はい、もちろんです...」
京「俺も...もっと分かりやすくなれるように頑張るから」
北「いーよ、京本はそのままで。」
俺だけしか見れないようにしてやるから。
樹「あのー、お二人さん?お取り込み中失礼するんだけど、撮影始まるんだわ」
北「おっまえ、」
京「はーい」
焦る俺を他所に何事も無かったかのように樹の方へ歩き出した。
北「...やっぱり頑張ってもらえばよかった」
京「ん、なんか言った?北斗」
北「んーん、なんでもない」
京「ほら、行くよ」
不意に手を差し出され戸惑ったが、進んでしまうその手をしっかりと捉えた。
北「ん」
ー
今回の俺の作戦は成功だったのか、はたまた失敗だったのか...。
この結果がどうだったのかは、これを読んでいる君が決めてくれ。
俺、松村北斗はこれからも彼には振り回されるだろう。
俺にはそんな感想しか残せない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。