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第5話

396
2024/03/03 15:06
従兄弟の由希がねずみ憑きであることは、由希の母親の妹に当たるあなたの母の劣等感をさらに加速させた。

自分の子は十二支でも何でもないただの人間だった事がとても腹立たしかった。

そんなことからあなたの母はいつもあなたにきつくあたっていた。
あなたの母
全く……なんで貴方は物の怪憑きじゃないの!?
こんなことなら……産むんじゃなかった!!
(なまえ)
あなた
(そんな事言われても……)
そんな家庭環境からあなたは年齢の割に落ち着いた、覚めた子供に育って行った。

そしてある日、母はあなたを当主である草摩慊人の侍女にしようとしたのだ。

当主の慊人は男。上手いこと取り入り果ては婚約させるのが母の魂胆であろう。
あなたの母
いい?あなた
貴方はこれからご当主の侍女になるの
何時でもどこでも当主に付き従って当主の命令は絶対聞く……お母さんとの約束、守れるわね?
あなたの母
絶対ご当主に気にいられなさい
そしてあのねずみ憑きよりも上に行くのよ!
母の目は野心に満ち溢れていた。
そんな母の魂胆を見抜いてか、見抜かずか、侍女頭と思われる白髪のおばさんがあなたを侍女にしろと本家に押しかけた母を門前払いしようとした。

そこでそのまま言い争いになり暇になったあなたはこっそりその場を抜け出した。
(なまえ)
あなた
ここが本家……広いなぁ
あなたは本家を探検する気持ちで歩いているとふと、椿の咲く庭で1人泣いている子供を見つけた。
(なまえ)
あなた
(泣いてる……)
あなたはゆっくりとその子の隣に近づいて隣にしゃがんだ。
するとその子はびっくりしたような顔をした後あなたを睨みつけた。
草摩慊人(幼少期)
草摩慊人(幼少期)
な、何だお前!?
(なまえ)
あなた
ねぇ、悲しいの?
苦しいの?
草摩慊人(幼少期)
草摩慊人(幼少期)
お前には関係ない!
あっち行け!!
その子供……慊人はあなたを突き飛ばそうとした。
だがあなたは慊人の手を両手で優しく掴んで微笑んだ。
(なまえ)
あなた
だいじょーぶ 
怖くない、怖くない
(なまえ)
あなた
1人じゃ、ないよ?
そう言ってあなたが笑うと慊人は目を見開いた。
そして慊人の両目から大粒の涙がこぼれ落ちた。あなたは何も言わず慊人の背中をさすって抱きしめた。

慊人が落ち着くとあなたは慊人に質問した。
(なまえ)
あなた
君、名前は?
草摩慊人(幼少期)
草摩慊人(幼少期)
慊人……草摩慊人
(なまえ)
あなた
慊人ちゃん?
あなたがそういうと慊人はさっきよりもびっくりした顔をした。
草摩慊人(幼少期)
草摩慊人(幼少期)
なんで、分かるの?
草摩慊人(幼少期)
草摩慊人(幼少期)
(僕が女の子って……)
(なまえ)
あなた
分かるよ!
慊人ちゃん、可愛いもん!
すると慊人はキョトンとした顔をした。
それが可笑しくてあなたがふふふと笑う。それにつられて慊人も微笑んだ。
草摩慊人(幼少期)
草摩慊人(幼少期)
君は?
(なまえ)
あなた
私はあなた!
草摩あなただよ!
(なまえ)
あなた
由希の従兄弟なんだ!
草摩慊人(幼少期)
草摩慊人(幼少期)
へぇ、由希の?
でも十二支じゃない、よね?
(なまえ)
あなた
うん!
十二支じゃないよ!
(なまえ)
あなた
だからお母さんが少しでも由希に勝つために当主様の侍女になってお嫁さんになれって怒るの!変だよねぇ、私は私で由希は由希なのに
慊人=当主であることを忘れているあなたははぁとため息をつくと慊人はなにか思いついたような顔をした。
それは今とは違う子供の閃いた!といった顔だった。
草摩慊人(幼少期)
草摩慊人(幼少期)
あなた!
こっちに来て!
慊人がそう言ってあなたを手を引っ張る。
玄関の方へ行くと2人をみた侍女頭と母は目を見開いた。
あなたの母
あなた!アンタ当主様に何をしているの!? 
無礼でしょう!?
(なまえ)
あなた
当主様……?
慊人は私の友達だよ!さっきそこで会ったの!
あなたの母
と、友達!?
草摩慊人(幼少期)
草摩慊人(幼少期)
そうだよ
慊人が同意すると母が黙った。
そしてようやく慊人が当主であることに気づいたあなたはあ、やばいかも、と思った。

だが慊人の口から出た言葉は衝撃的なものだった。
草摩慊人(幼少期)
草摩慊人(幼少期)
僕の許嫁を決めるって話……相手はあなたにするよ
その言葉にその場にいた全員が驚きを隠せなかった。
慊人の侍女
慊人さん!?一体なぜこんな者を……!?
草摩慊人(幼少期)
草摩慊人(幼少期)
僕の決定に指図するの?
慊人の侍女
いえ、そういう訳では……
草摩慊人(幼少期)
草摩慊人(幼少期)
おいであなた!
僕の部屋に連れ行ってあげる!由希も居るんだよ!
(なまえ)
あなた
え?あ、うん!
訳が分からないまま慊人に手を引かれて本家の中に入る。
少しふりかえった時の母のこの上なく嬉しそうな……気色の悪いあの顔は多分一生忘れない。

結局そのまま慊人の許嫁として成立してしまったあなたは、一度も自宅に帰ることは無かった。

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