レイラーside .。.:*☆
…長い。
ツアーの2回目のライブの舞台裏。もうすぐ始まる、というときに私はそんな言葉だけを繰り返し頭に浮かべては消していた。
いつもはメンバーと話して…って、空気悪くしたのは私だけど。
あの日、私がああ言って出て行った後は、すぐにお開きになったようで、メンバー内の空気は最悪。
楽屋でもここでも、誰も話そうとはしなかった。
ただ1人、私たちの頼れるリーダーを除いては。
明らかにぎこちなくなっているのは気のせいではないだろうが、こうやってやってくれているあたり〝完璧〟だなぁ、と痛感する。
目線をずらしながら元気なく答えるメンバーたちは、とても気まずそうだ。
その中で私はメンバーの輪から外れたところで暗黒を見つめていた。
少しの間向こうの声を聞いていると、後ろから雪のような透き通った声が聞こえた。
おずおずといった感じで話しかけてきたのはみぞれさんだった。
多分みぞれさんは私がアイドルをやめることについてなにか言おうとしたのだろうけど、マネージャーさんの声に遮られてしまった。
にこ、と控えめに微笑んで、みぞれさんはステージへ出て行った。
心の中で謝って、私もみぞれさんに続いた。
今回のライブも盛況で、あっという間に終わった。
めめさんが声をあげて、またわっと歓声があがる。
その後に、私は自分のマイクを握り直して深呼吸をして、声を発した。
観客もメンバーも、ざわ、と騒めく。
みぞれさんが止めに入るが、あいにくマイクはみぞれさんの声を拾わなかった。
…よくも悪くも、観客は各々声をあげた。
私のファンは悲しむ声を。
私のアンチは喜ぶ声を。
後ろのメンバーは驚く声を。
舞台裏からはマネージャーたちは怒り困惑する声を。
正面からも背後からも、横からも。
たくさんの声が私を埋め尽くし、攻め立てられているように感じた。
メンバーにぎりぎり聞こえるかどうかの声で私は言って、観客に向き直る。
アイドルが引退するときによくやる最後のメッセージ的なことをやって、私は1人勝手に舞台裏に戻った。
そして目を閉じて、ただ騒めく声を聞いていた。
すると当たり前だがマネージャーに声をかけられた。
私はそうとだけ告げて、駆け出した。
マネージャーの声を無視して、舞台裏も抜けて、会場も抜けて。
ただ走った。
今止まったらまたうじうじしてしまう気がしたから。
走った末に私は、咲き誇るピンク色の花を再び見た。





















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!