同時刻ーーーーーー……
目を覚まして最初に見たのは、見慣れない病室の天井だった。体が鉛の様に重たい。どうやら私は、長い間気を失って寝込んでいた様だ。いざ起き上がろうとすると、頭と体がズキズキと痛み、まともに動く事が出来ない。
異様なのは、私が何故病院にいるのか記憶にない事。
そして、両手には医療用拘束具が取り付けられていた事だった。拘束と言っても、括り付けているベッドから約1メートル程度まで動く事が可能な長さであった為、ベッド周りでの病室生活内では特に問題はなさそうだった。
私は確か、ゾムさんや鬱先生と“奴ら”から逃れるために行動を共にしていたはず……。
それから、ショッピ君やロボロさんと出会って、
それから……。逃走用の車を探していたら、見たことのない大きな“化物”と遭遇してしまって……。それから、どうなった?
辺りは寒気がする程静かで何もなかった。周りは白い壁で覆われ、目の前には壁一面に大きな鏡が取り付けられており、自身が怪我人である事を再確認させる白い包帯が声を出してみても誰かが来る気配もなかった。
なんて独り言をボヤいたすぐ、目の前の壁がシューと大きな音を立てたものだから、失神するほどびっくりした。
どうやら目の前の巨大な鏡は、俗に言うマジックミラーであり、空気が抜ける様な音を立てながら少しずつ向こう側の景色が見え始めていた。
そして視界が完全に開けた後、私は息を呑んだ。
目の前には私の部屋と同じ様な質素な病室が広がっており、部屋の片隅に丸くなる様にオスマンさんが座り込んでいたのだった。向こう側の音がこちらからでも聞こえた為、会話は出来そうだった。
声をかけても返事はない。
彼はその声に耳を傾けながらも、ながい前髪の隙間から青白い目を覗かせて震えるだけだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……………
時間の経過と共に、この病室生活にも慣れ、少しずつ分かった事もあった。
恐らく病棟内には医者や誰かしら存在する可能性がある事。会ったことはない。
1日2食ではあるが、隣にあるカウンターから毎日決まった時間に食事が自動的に置かれ、食べ終わり先ほどのカウンターへ食器を置けば自動的に回収してくれている様だった。味は薄く淡白なもので、お世辞にも美味しいとは言えないが、食べられる分だけマシだと考えて乗り切った。
室内にあるお手洗いを使用する時には拘束具とベッドの間に伸縮性のある鉄紐が起動し、室内を5、6分程度は自由に動き回れた。壁には時計もあったので、ある程度の時間は把握できた。
ただ、動き回れる時間はそれだけで、何時間もベッドで過ごすのは流石にきつかった。何度も外に出ようとしたが、扉には鍵がかかっており内側から出ることは難しかった。恐らく、“奴ら”に噛まれた可能性を見込んでの隔離なのだろう。本の一冊でも置いてくれれば乗り切れそうだったが贅沢は言ってられない。
窓がない為、外が今どういう状態か確認が分からないし。それに“奴ら”もまだ外に存在している筈だ。政府や病院の先生方も暇ではないはずだ。
悪い事ばかりではない。
長い時間の暇つぶしをオスマンさんと過ごす事が出来たのだから。何より、彼の容態について憶測だが知ることが出来たのだから。
彼を一目見た時、コネシマさんやシャオロンさんの様に“奴ら”に襲われてしまったのだと思ったが、目の色素が抜け落ちているだけで血色は良く、しっかりとした言葉を話すことが出来た為、すぐに別の症状であると考えた。
うちの症状かは分からないが、オスマンさんは、コミュニケーション力に障がいがある様に感じた。
情報量が多く継続的な会話は難しく、先程の会話の様に明確な言葉、単語のみであれば意味が伝わっている様だった。
また会話を続けるうちに、物の名前や意味が分かっていなかったり、おうむ返しを頻繁に行う事から、知的部分にも障がいがある様に感じた。
『プシューーーー………!!』
…と、こんな会話をぐだぐだと続けているうちに「いつもの時間」が来てしまった。
私とオスマンさんが、こうして面会できる時間は限られていた。一日に1、2回程度の夜、一定の時間マジックミラーが白く曇り始め、数分もしないうちにただの鏡と化す。今日の面会もここまでのようだ。
このシステムが機能した初め、オスマンさんのことが心配で仕方なかったのだが、耳を澄ますと鏡の向こう側で複数の喋り声が微かに聞こえてきた。恐らく、医者や看護師さん方が彼の容体をチェックしているのだろう。
彼がいるであろう方向を見て独り言を呟き、気絶する様に眠りについた。
そして、それが何日か続いた。
夕食に出された緩いコーヒーを飲みながら、今日もオスマンさんと他愛もない会話をしていた。
彼は相変わらず無口で、部屋の隅っこに座って私を見ていた。
『プシューーーーー………!!』
そう言って、マジックミラーはただの鏡と化した。
慣れというのは恐ろしい物だ。
初めはこの病院の設置や雰囲気の異様さに警戒していたが、数日も過ごせばその環境に適応している自分がいる。
……彼と会話を楽しんだ後、恐ろしいまでの眠気に襲われた。これはいつものことだ。話に没頭しすぎて疲れたのだろう。
さて、今日はもう寝ようか。
オスマンさんだって、自分自身と戦っている。私自身は症状は特にないが、病院で隔離されているという事は、何かしら体に異常があるに違いない。眠って体力を回復しなければ。
また皆で、
一緒にバカ騒ぎしたいから。
おやすみなさい
突然の声に体を起こして、当たりを見回した。
声主は鏡の向こう側にいるであろう、オスマンさんだった。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。