私は、仕返しがしたい。

この間した、隠れて後ろから驚かすという計画はバッチリだった。

……でも何の欲か、まだ足りない。

あの時も驚かれただけで、照れている様子が全くもってなかった滉斗くん。

いつも私は振り回されてばっかり。


ということで、私の仕返し計画はまだまだ続く。
(今回で終わりにしなきゃだけどね)

今日、滉斗くんは音楽番組に出演していた。

もちろん私はリアタイしたし、録画予約だってしてある。


予定だと、あともう少しで滉斗くんが帰ってくる。



私の計画はこうだ。

まず滉斗くんがリビングに入ってきた時、私は録画を見ている。

滉斗くんが反応した時、｢かっこよかったよ」の一言。

動揺してる滉斗くんに、せっせとご飯を食べさせる。
その際、私はあーんを無理矢理行う。
ちなみに、食べてくれるまでやめない。

その後お風呂に入らせ、上がってきた時にドライヤーで髪を乾かしてあげる。
気を抜いている隙にバックハグ！

脳内シュミレーション、完璧。

本当に、こんなこと柄じゃないんだけど
何年間も想い続けてきた相手で、ドキドキされっぱなしで。
やっぱり、悔しいから。

帰ってくる予定時刻から2分ほど過ぎた時、ドアの音は鳴る。

私は録画を流す。
ちょうど滉斗くんが演奏しているところ。

良きタイミングで、滉斗くんがリビングに入ってきた。

私はゴクッと唾を飲み、全力の笑顔を向ける。

さぁ！反応はどうだ！！

あ、え、失敗？

というか、キュンとするようなしないような言葉……。
演奏に集中しなさい。


いや、この自信と微妙感もまた好きなんだけど。



メイクがまだ落とされてない顔で爽やかな笑顔を見せられ、どちらかというと私が照れてしまった。

滉斗くんは嬉しそうな顔をしたあと、手を洗ってそのまま着替え

嬉しそうにラップを外し、温める作業を行っていた。


次だ！次！！

私は自然(なはず)な感じで滉斗くんの横へ座る。

口に食べ物を入れたまま、こっちを不思議そうに見る滉斗くん。


頑張れ、私！

滉斗くんが食べていたおかずにお箸を伸ばし、食べ物を取る。

そのままそれを滉斗くんの口元に持っていき＿＿

これまた満面の笑みで。

さぁ、さすがにこれは大胆でしょ…！

私はぽかんとしてしまう。

滉斗くんがまたまた不思議そうに私を見つめたあと。

そのままお箸を手渡す。

また、失敗……。



いや、まだチャンスはある！
最後だ！

物凄いスピードで滉斗くんはご飯を食べ終え

そのままお風呂へと向かった。

その間に、私は体を動かしてシュミレーションを行う。

なんて、考えすぎてたもんだから
もちろん、お風呂から上がってくるのも一瞬だった。

今度こそ、成功させたい…。

髪の毛をびしょ濡れにしたまま、滉斗くんがリビングに戻ってくる。

かなり、キョドってしまった。

滉斗くんはそんな私を2秒ほど見つめたあと、クスッと笑って

そう言ってソファにどかっと座った。

よし、と魂を込めて
ドライヤーの電源を入れる。

ぶわああっと、特有の大きな風の音が鳴り
少し風が当たっているのか、滉斗くんのびしょ濡れの髪の先あたりが揺れている。

私はそこに手で触れ、髪の毛を乾かしていく。

自然な感じを演出したくって
なんとなくの会話も入れてみる。

毎日会っているとはいえ、しっかり話す時間なんてそんなに無いから。


こういう時に、彼を充電しておく。

そう言って立ち上がろうとする彼を


私のバックハグが止める。

滉斗くんは、何も言わない。

ただ、私の手にそっと添えて、何も言わない。

これも、失敗かぁ。

…まるで、何も無かったかのような言い方。

悔しすぎる。

でも悔しいより、今はちょっとぴり寂しい。

私ばっか、あなたにドキドキしているみたいで。


滉斗くんは、私の重い愛を知って
妥協で付き合ってくれてるんじゃないかって。

重い考えばかりが私の頭をグラグラさせる。

滉斗くんは少し黙ってから、答えてくれた。

私はソファの外側を回り、滉斗くんの目の前に行く。






＿＿驚きが、抑えられなかった。

後ろからだったから、分からなかった。


滉斗くんは顔を真っ赤にして下を向いている。

どうして、いきなり。

滉斗くんは腕を伸ばして私の手を掴み、そのまま引っ張る。


｢わぁ｣なんて、私は情けない声を出す。



そのままソファへなだれ込み、2人で寝転がる形になった。

滉斗くんが私をぎゅっと、少し強く抱きしめる。

よく耳を澄ますと
滉斗くんの心臓は、とんでもない速さで音を鳴らしている。

もしかして。

滉斗くんは私から少し離れて、私を見つめながら髪を撫でてくる。

相変わらず、頬は赤いまま。

かっこつけるなぁ。


…そこも素敵だと思うけど。

悔しそうで、恥ずかしそうだけど
嬉しそうでもある滉斗くんが見られたので

今日はもう、言うことなし。