第161話

ゾムの遠い思い出
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2023/05/28 08:59 更新
「暗殺部隊にプロタゴニスト国の幹部半数を殺せって任務きたらしいじゃん」

「けど、あそこってこの前の任務で壊滅してなかった?」

「ほぼだよほぼ。数人残ってる」

「誰が行かされるんだ?」

「そりゃ…疫病神だろ」

「やっぱり?あいつが行くと、ほかのやつ死んでんじゃん」

「だからだよ、そもそも、あいつが単独行動するのが悪いんだろ」

「ははっ、言えてる」
別に、何を言われても良い。俺以外のやつらが死んだのは事実だから。けど、あんな作戦に従っていたら、それこそ俺も死んでいた。
だからこそ逃げた。単独行動であり、死からの逃亡。それでいて任務の遂行を果たしたのはこの俺だけであり、他の隊員あいつらが報告した内容は俺を乏し、自分を祭り上げるだけの内容。
わざと失敗してやろうか、ここであそこに行けばすぐに死ねるんじゃないか。そう考えても、俺の体は真面目に、死なぬように、任務を行った。
だから、この状況は不思議だった。監視カメラを避けて動いても、ダクトに入っても、敵がいる。
ある程度怪我をおうと逃亡し、他の奴らが銃で俺を撃って近付けないようにしながら逃げる。惚れ惚れするような連携プレーだ。
もし、俺の仲間もこんな風だったら、俺はもっと楽しく戦えていたかもしれない。
敵に向かって爆弾を投げ込み、ダクトに逃げると爆音。これであいつらは死んだはずだ。まだ幹部の一人も殺せていない。速くしないと、こちらが死ぬ。
カツン
下の廊下で2人の足音がした
カツン、カツン、カツン、
近付いてきて、ダクトの下でピタリと止まり、話を始める。
コネシマ
死んでんなぁ
シャオロン
ほんまやねぇ
コネシマ
どこの誰が死んでるんやろ
シャオロン
トントンのところの部隊やろうなぁ、逃げ遅れた言ってたし
コネシマ
そうか
その2人の後ろ、ダクトから飛び降り首にナイフを突き刺そうとした
なのに、その後ろから首を捕まれた
ゾム
グゥッ
思わず声がもれる。掴んだやつの手にナイフを刺してやろうとして、振り返った前の2人に手を掴まえられたことに気が付く。
足で蹴り上げようとすれば、床に転がされそのまま距離をとった
シャオロン
見事に釣れたなぁ侵入者さんよぉ
コネシマ
安心しろトントン、死者は出とらん
トントン
でもなぁ…俺の仲間を殺そうとしたんは、許さんからな?
口角をあげた3人の幹部は武器を構えて俺を見る。あの爆弾なのに、死者は出ていなかった。その事に困惑しつつも、身を守るため、任務を果たすため、ナイフを構える。
まず動き出したのは、幹部の2人。書記長はこちらを見るだけだ
2人の攻撃をさばきながら、コネシマの首めがけて踏み込んだ。
その途端、酷い悪寒がして身を引く。すると、俺がいたところに矢が深々と突き刺さった。
コネシマ
おいロボロ!俺が死ぬところやったやんけ!
叫びながら剣を再度振りかざすのを受け止め、飛んできたシャベルを受け流す。
コイツら、強い
風を切る音が聞こえ、飛んできた矢を後ろに飛んで避ける、と、もう一発何かが腕に刺さった
見れば注射器のような形をしている。
ゾム
麻酔じゅ…う…?
足から力が抜け、その場にへたり込む。動かそうとする手が、信じられないほど重く、言うことを聞かない。全部の武器を奪った書記長が俺の顎を掴んで上を向かせる。
トントン
どこの国から来たんや?
凄まじい威圧と殺気だ。なんとなく、俺はコイツに勝てないと感じる。気迫に押されるように、喉の奥から声が出る。
ゾム
…オムダル
トントン
オムダルな、何で来たんや
ゾム
幹部半数を殺す命令
トントン
何人で来たんや
ゾム
………おれだけや
トントン
ウソついたらアカンで?
ゾム
捨てられたんや、疫病神やから
ゾム
ここが強いって知っとった、一人じゃ無理やって言った
ゾム
なのに、俺だけここにこさせられた
ゾム
なぁ、楽に殺して欲しいねん。あんなところで死にたない
ゾム
苦しいんも、痛いのもいやや、全部知ってること言うから、楽に殺してくれへんか
そうか、俺は楽に死にたかったのか。どうりであんなところに突っ込んでいかないわけだ。無意識に痛いことや苦しいことを避けていたから、こうなったんだ
気が付いたら涙が溢れてきていた。何で泣いてるんだろうとどこか遠くに感じながら、書記長を眺める。いつの間にか放たれていた殺気は消え失せ、こちらを真っ赤な瞳が見つめているだけだった
トントン
……辛かった、か?
ゾム
わからん、良く見えてなかったから
ゾム
ずっと、ふわふわしとった。全部遠かった
ゾム
痛いのも、辛いのも、全部遠かったから。平気じゃないけど辛くはなかったんや
そこまで言うと、体が浮いた。目の前一杯に緑の布があって、書記長に担がれたんだなとボンヤリ思った。これからどこに行くんやろ。拷問されるのかな。俺あんまり情報持ってへんのやけどな
コネシマ
トントン?トント~ン、拷問室あっちやで?
トントン
わかっとる。けど、コイツ精神やばいから、そっちを治すのが先やろ
シャオロン
は?敵やぞコイツ。精神やばいなら、拷問すりゃすぐはいてくれるんやないの?
トントン
良いから、連れてくぞ
ゾム
…なんや、俺を助けんのか
トントン
…似た者同士、ってやつやな
似たところなんてないだろ。お前は一国の書記長。国で2番目の権力を持って、あれだけ強い。そんなものが俺を似た者同士だなんて笑わせるな。そんなことをぐるぐる考えながら何一つ口に出せず、大人しく担がれて医務室に入った。
しんぺい神
追加の患者~?って、侵入者じゃん!!
トントン
精神がやられとる。助けてや
まわりをみれば、さっき俺が爆弾を投げ込んだ奴らが全員揃ってこっちを睨んでいる。何で誰も死んどらんねん
しんぺい神
え、なに、俺殺されない?
椅子にもたれ掛かるように座らされた俺から距離をとりつつ医者らしき人がこわごわ見てくる。無理だわ、今俺うごけへんのやもん
トントン
大丈夫やから…武器は全部とったしな
しんぺい神
やだこわい
トントン
あぁもう、こんでええやろ
書記長が俺の体を軽く押した。それだけで体は椅子から倒れ落ち、したたかに全身を打ち付けた。
ゾム
…いたい
絞り出すような声が出た。実際はそこまで痛くない。切られた時の方が痛いくらいだ。
しんぺい神
えげつないねぇ…
トントン
どうせたいして痛くない。麻痺してまっとるからな
しんぺい神
そうなの?
ゾム
…おん
しんぺい神
んー、じゃ、治療の方面で行くけど、本当に良いの?
トントン
頼むわ、俺はコイツがぶっ飛ばした屋根だの窓だの買わなアカンから、トンつく隊の奴ら集めてくる
しんぺい神
いってらっしゃい
しんぺい神は敵と警戒していても、丁寧に診察をしてくれた。麻酔が抜けて動けるようになってもどこに報告するわけでもなく、ただ良かったねとだけ言った。
3日ほどして、紙のコピーを一枚渡された。その内容は俺の新しい戸籍で、新しく『ゾム』としてこの国での生活が認められたことを知らされた。
この頃にはしんぺい神以外にも、直接戦ったコネシマやシャオロン、矢を撃っていたロボロや麻酔を撃った大先生とも話をするようになった。
俺に怒ったり、殴ったりするかと思ったけど、みんな、強かったな!って笑うだけで、退院したら一緒に訓練がしたいって言ったりしてくれた。
それから2週間、医務室で俺は過ごした。いっぱい寝て、ゲームをして、お腹いっぱい食べて、しんぺい神と話をして、医務室の中で運動をしたりして、すっきりとした気持ちに包まれていた。
しんぺい神
大分調子が良くなったね
ゾム
おん!しんぺい神ありがとうな!
いつも感じていた、どこか遠くのような世界はぐんと近くなって、聞こえる音が大きくなった。最初はビックリしたけど、これが普通なんだとすぐに気が付いた。
しんぺい神
今日は、君と話がしたいって人がいるんだけど、はじめましての人と会って大丈夫?
ゾム
大丈夫…やと思うで
しんぺい神
わかった、入って良いよ
扉に向かって声をかけると、扉が開き、その向こうからよく知る顔があらわれた。
ゾム
総統…グルッペン様!?
慌てて跪き、顔を下げると、吹き出す声があちらこちらから聞こえてくる。
しんぺい神
ゾム、別にグルッペンの前では跪いたりしなくて良いんだよ
ゾム
え、でも、一番偉いやん…?
しんぺい神
んー…そういう方針だからかな?グルッペンと僕たちの距離がすごく近いんだ。思い出してごらん、トントンにもみんなタメ口だし、ふざけたりしてたでしょ?それと一緒だよ
しんぺい神
だから、立って。ね?服が汚れちゃうよ
困惑しながら立ち上がると、無表情のグルッペン様が立っていた。何か喋るでもなく、ただ俺を上から下まで眺め回している。
正直、かなり怖い。フードの裾を引っ張って、顔が見えないようにうつむく。
グルッペン
フードを取れ、そして、こっちを見ろ
思わず肩が揺れる。うちの国王とは訳が違う。受け継いだ血筋ではなく、総統の席に座れるだけの実力とカリスマ性を持った男だ。
震える手でフードを取り、蒼い目を見つめる。その目の奥に、人を喰った猛獣虎の姿を幻視した。
グルッペン
…ゾム
ゾム
っはい
グルッペン
お前、戦うのは好きか
ゾム
得意です
俺を見つめる瞳が細められ、喉が変な音を出す。
グルッペン
好きか、嫌いかだ。どっちだ
答えようとしたのに、声がでなかった。わからない。俺は戦うのが好きなのか?けど、俺は戦うのが嫌いで、けど、得意で…
しんぺい神
グルッペン、彼はまだ本調子じゃない。とりあえず威圧をやめんか
グルッペン
イタッ、…何を言うんだしんぺい神、別に俺は威圧なんぞしとらん
カルテを挟んだボードでグルッペン様の頭を叩いたしんぺい神に呆気に取られる。部下が?目上の人を?叩いた?え?
グルッペン
はぁ~~…でだ、好きか嫌いかわからんのか
ゾム
…はい
グルッペン
いや、こちらこそすまない。どうも俺は見た目が怖いらしいからな、その事を失念していた
空いているベッドの上に音を立てて座ると、またしんぺい神がその頭をはたく。俺も座ろうとしたが、止められた。
グルッペン
下から見た方が見下ろされるよりはましだろ。そもそも、聞いた理由だな。これをはなそう
グルッペン
お前が強いからな、幹部として我が軍に入隊して欲しかったんだ。好きなら入隊させるし、嫌いなら町で働き口を探す。それを聞くためだっだんだが…
グルッペン
すまなかった、脅すような真似をしてしまって
そこまで言うと、グルッペン様は深々と頭を下げた。
ゾム
え、あ、や、やめて下さい。その、俺も悪いんで
ゾム
その…いまいち好きか嫌いかは分からないんです。得意だから…好き、みたいな感じで…
グルッペン
好きなのか?
ゾム
どっちかと言われたら…好きよりですかね?
グルッペン
…まぁいいさ、好きな方を選べ。入隊して欲しいのは山々だが、無理強いはしない
そこまで言うと、グルッペン様は演説をするときの顔になる。
グルッペン
我々は、お前をいつでも歓迎する。来たくなれば来い。嫌になれば出ていけば良い。我々はそれを止めはしない
グルッペン
お前には、お前の人生を主役として生きる資格がある。どんな話にするかはお前次第だ。誰もそれを害する権利を持っていない
グルッペン
好きに生き、好きに死ぬ。人生という短編を、歴史という壮大なストーリーを我々は主役として生きる権利がある
グルッペン
『プロタゴニスト国』
グルッペン
我々、主役達が住む国だからな
グルッペン
ゾム、君はどうしたい?
ゾム
……俺、は……
ショッピ
……で、結局入隊したんですか
ゾム
そういうことやな。まぁ、流石にすぐは戦えんかったで?ずっと動いてなかったし、腕もなまっとったから、それを戻したり、トラウマ克服したりとかしてな
ゾム
幹部になったのはその後や
チーノ
軽く聞きましたけど、壮大ですねぇ
ゾム
いや、話してるときも言ったんやけど、前の国にいた時のこと、全部が遠かったんよ
ゾム
なんならたいして覚えとらん
ショッピ
ふわふわしてたとか、全部が遠いってどういうことやったんです?
ゾム
んー…しんぺい神が言うには、離人症みたいなのになっとったんやと。ストレスから逃げるためにこれは関係ないことと脳が思おうとした結果やってさ
チーノ
はぇー…ブラック国家って怖いですね
ショッピ
ブーメランやでチーノ
チーノ
俺の祖国も潰れたんで良いんでーす

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