「暗殺部隊にプロタゴニスト国の幹部半数を殺せって任務きたらしいじゃん」
「けど、あそこってこの前の任務で壊滅してなかった?」
「ほぼだよほぼ。数人残ってる」
「誰が行かされるんだ?」
「そりゃ…疫病神だろ」
「やっぱり?あいつが行くと、ほかのやつ死んでんじゃん」
「だからだよ、そもそも、あいつが単独行動するのが悪いんだろ」
「ははっ、言えてる」
別に、何を言われても良い。俺以外のやつらが死んだのは事実だから。けど、あんな作戦に従っていたら、それこそ俺も死んでいた。
だからこそ逃げた。単独行動であり、死からの逃亡。それでいて任務の遂行を果たしたのはこの俺だけであり、他の隊員が報告した内容は俺を乏し、自分を祭り上げるだけの内容。
わざと失敗してやろうか、ここであそこに行けばすぐに死ねるんじゃないか。そう考えても、俺の体は真面目に、死なぬように、任務を行った。
だから、この状況は不思議だった。監視カメラを避けて動いても、ダクトに入っても、敵がいる。
ある程度怪我をおうと逃亡し、他の奴らが銃で俺を撃って近付けないようにしながら逃げる。惚れ惚れするような連携プレーだ。
もし、俺の仲間もこんな風だったら、俺はもっと楽しく戦えていたかもしれない。
敵に向かって爆弾を投げ込み、ダクトに逃げると爆音。これであいつらは死んだはずだ。まだ幹部の一人も殺せていない。速くしないと、こちらが死ぬ。
カツン
下の廊下で2人の足音がした
カツン、カツン、カツン、
近付いてきて、ダクトの下でピタリと止まり、話を始める。
その2人の後ろ、ダクトから飛び降り首にナイフを突き刺そうとした
なのに、その後ろから首を捕まれた
思わず声がもれる。掴んだやつの手にナイフを刺してやろうとして、振り返った前の2人に手を掴まえられたことに気が付く。
足で蹴り上げようとすれば、床に転がされそのまま距離をとった
口角をあげた3人の幹部は武器を構えて俺を見る。あの爆弾なのに、死者は出ていなかった。その事に困惑しつつも、身を守るため、任務を果たすため、ナイフを構える。
まず動き出したのは、幹部の2人。書記長はこちらを見るだけだ
2人の攻撃をさばきながら、コネシマの首めがけて踏み込んだ。
その途端、酷い悪寒がして身を引く。すると、俺がいたところに矢が深々と突き刺さった。
叫びながら剣を再度振りかざすのを受け止め、飛んできたシャベルを受け流す。
コイツら、強い
風を切る音が聞こえ、飛んできた矢を後ろに飛んで避ける、と、もう一発何かが腕に刺さった
見れば注射器のような形をしている。
足から力が抜け、その場にへたり込む。動かそうとする手が、信じられないほど重く、言うことを聞かない。全部の武器を奪った書記長が俺の顎を掴んで上を向かせる。
凄まじい威圧と殺気だ。なんとなく、俺はコイツに勝てないと感じる。気迫に押されるように、喉の奥から声が出る。
そうか、俺は楽に死にたかったのか。どうりであんなところに突っ込んでいかないわけだ。無意識に痛いことや苦しいことを避けていたから、こうなったんだ
気が付いたら涙が溢れてきていた。何で泣いてるんだろうとどこか遠くに感じながら、書記長を眺める。いつの間にか放たれていた殺気は消え失せ、こちらを真っ赤な瞳が見つめているだけだった
そこまで言うと、体が浮いた。目の前一杯に緑の布があって、書記長に担がれたんだなとボンヤリ思った。これからどこに行くんやろ。拷問されるのかな。俺あんまり情報持ってへんのやけどな
似たところなんてないだろ。お前は一国の書記長。国で2番目の権力を持って、あれだけ強い。そんなものが俺を似た者同士だなんて笑わせるな。そんなことをぐるぐる考えながら何一つ口に出せず、大人しく担がれて医務室に入った。
まわりをみれば、さっき俺が爆弾を投げ込んだ奴らが全員揃ってこっちを睨んでいる。何で誰も死んどらんねん
椅子にもたれ掛かるように座らされた俺から距離をとりつつ医者らしき人がこわごわ見てくる。無理だわ、今俺うごけへんのやもん
書記長が俺の体を軽く押した。それだけで体は椅子から倒れ落ち、したたかに全身を打ち付けた。
絞り出すような声が出た。実際はそこまで痛くない。切られた時の方が痛いくらいだ。
しんぺい神は敵と警戒していても、丁寧に診察をしてくれた。麻酔が抜けて動けるようになってもどこに報告するわけでもなく、ただ良かったねとだけ言った。
3日ほどして、紙のコピーを一枚渡された。その内容は俺の新しい戸籍で、新しく『ゾム』としてこの国での生活が認められたことを知らされた。
この頃にはしんぺい神以外にも、直接戦ったコネシマやシャオロン、矢を撃っていたロボロや麻酔を撃った大先生とも話をするようになった。
俺に怒ったり、殴ったりするかと思ったけど、みんな、強かったな!って笑うだけで、退院したら一緒に訓練がしたいって言ったりしてくれた。
それから2週間、医務室で俺は過ごした。いっぱい寝て、ゲームをして、お腹いっぱい食べて、しんぺい神と話をして、医務室の中で運動をしたりして、すっきりとした気持ちに包まれていた。
いつも感じていた、どこか遠くのような世界はぐんと近くなって、聞こえる音が大きくなった。最初はビックリしたけど、これが普通なんだとすぐに気が付いた。
扉に向かって声をかけると、扉が開き、その向こうからよく知る顔があらわれた。
慌てて跪き、顔を下げると、吹き出す声があちらこちらから聞こえてくる。
困惑しながら立ち上がると、無表情のグルッペン様が立っていた。何か喋るでもなく、ただ俺を上から下まで眺め回している。
正直、かなり怖い。フードの裾を引っ張って、顔が見えないようにうつむく。
思わず肩が揺れる。うちの国王とは訳が違う。受け継いだ血筋ではなく、総統の席に座れるだけの実力とカリスマ性を持った男だ。
震える手でフードを取り、蒼い目を見つめる。その目の奥に、人を喰った猛獣虎の姿を幻視した。
俺を見つめる瞳が細められ、喉が変な音を出す。
答えようとしたのに、声がでなかった。わからない。俺は戦うのが好きなのか?けど、俺は戦うのが嫌いで、けど、得意で…
カルテを挟んだボードでグルッペン様の頭を叩いたしんぺい神に呆気に取られる。部下が?目上の人を?叩いた?え?
空いているベッドの上に音を立てて座ると、またしんぺい神がその頭をはたく。俺も座ろうとしたが、止められた。
そこまで言うと、グルッペン様は深々と頭を下げた。
そこまで言うと、グルッペン様は演説をするときの顔になる。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!