第6話

名前を呼ばれた日。
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2025/06/14 06:23 更新




花瀬side

「おはよ、花瀬さん」





その声が聞こえた瞬間、






心臓が、トン、と跳ねた。






春の朝。







ふわりと風が吹いて、カーテンが揺れて、
教室の空気が、やわらかくほどけていく。









昨日と同じように、私の隣に座る長尾くん。











だけど、たったひとつだけ違ったのは──










今日は、「私の名前」を呼んでくれたこと。











“花瀬さん”っていう名字じゃなくて、
本当の私を、そっと包むような“あなた”っていう名前。










それが、どうしようもなく嬉しかった。











「“あなた”って、素敵な名前やな。めっちゃ似合ってる」







照れくさそうに笑いながら、彼はまっすぐにそう言った。













まるで、桜の花びらがひとひら、そっと心に落ちてきたみたいだった。








“似合ってる”って___










そんなふうに言われたの、初めてかもしれない。









『名前、気に入ってるから、嬉しいです』









ノートにそう書いて、彼に見せる。











「やっぱり、ええなぁ。“あなた”。響きがやわらかいし、なんか……可愛い。」












ドキッとした。










“可愛い”って。








名前のこと? それとも──












……そんなの、考えちゃダメなのに。












でも、長尾くんの声がやさしくて、あたたかくて、
その言葉に、胸の奥がじんわり染まっていった。









私の声は、まだ出せない。










でも、気持ちはちゃんと届いてる。










長尾くんは、ちゃんと受け取ってくれてる。














たくさん話せなくても、












笑ってくれる。















優しくしてくれる。














──私なんかに、こんなふうに話しかけてくれる人がいるなんて。














「ありがとう」って、声に出せたらどんなに嬉しいんだろう。









この気持ちを、自分の声で伝えられたら、もっと近づける気がする。










そんなことを思ってしまうくらい、私はもう。











長尾くんの声に、笑顔に、













毎日、心を動かされていた。










春風が、髪をふわりと揺らす。










名前を呼ばれたこの朝は、










きっと、ずっと忘れない。












私の世界を少しだけ変えたのは、







小さな「おはよう」と──














「あなた」って呼んでくれた、
















その甘くて、やさしい声だった。











 



甘め長尾くんをぜひお楽しみください…💛🪽



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