あなた said
僕らブラックジャッカルは、
三年連続優勝中のアドラーズに挑む立場だ。
けれど挑戦者だからといって怯む気持ちは少しもない。
むしろ、この三連覇に終止符を打つのは
僕らだと信じて疑わない。
両チームとも、日本代表に名を連ねる選手が多く揃い、
木兎や牛島を中心とした僕ら三世代は特に“怪物揃い”
なんて言われている。
妖怪世代。
それは誉め言葉であり、同時に呪いでもある。
呼ばれるからには示さなきゃいけない。
僕らが底なしに貪欲に勝ち続ける世代だと。
放送のスタメン紹介が流れる。
観客がどよめき、名前がひとつ呼ばれるたびに
黄色と黒のライトスティックが揺れる。
日向と僕は今日はレビュー戦。
つまり、まだ完全復帰前だから、前半は控え。
まずは日向がリズムを引っ張り、
僕は後ろから状況を見ながら入る。
穂乃真も同じだ。
最初は影山、後から穂乃真。
影山の体力を温存させる目的だろうけど、
正直、日向も影山も体力の化け物だから、
僕ら二人に出番が回ってくるかは
神のみぞ知るってところだ。
試合開始の笛が鳴る。
空気が裂ける。
影山飛雄のサーブ。
鋭く、重く、深く突き刺さる。
高校時代の彼とは階層が違う。
あの頃はただ速かった。
しかし今は“狙って殺しにきてる”。
だが、そのボールを──────日向が上げた。
影山がフランス代表を追い詰めたあのサーブ。
世界を苦しめたサーブ。
それを日向が一発で、音を殺すように吸い上げた。
日向は転がりながらもすぐ立ち上がり、すでに走っている。
宮侑がトスを上げる。
コート全体の空気が一瞬止まる。
日向翔陽が跳んだ。
跳んだ。
“飛んだ”。
誰より高く、誰より軽く、
ブロックの指先なんて問題にならないほどの高さで。
鮮やかに叩き込まれたボールが床に弾む瞬間、
コートが震えた。
BJが先制点を取る。
日向が叫び、拳を突き上げる。
会場が跳ねる。
おかえり日向。
影山は“遅い”と思ってるかもしれない。
でも、本当は嬉しいはずだ。
続いて宮侑のサーブ。
応援団の演奏が会場を響かせていたが、
宮侑は手を挙げ、拳を握る。
演奏が一瞬で止まる。
これ嫌なんだよなぁ...。
だが、宮侑のサーブはギリギリのコースで
サイドラインを割りアウト。
惜しい。
続いてロメロのサーブだ。
ニコラス・ロメロ。
ブラジル代表歴十数年、世界トップのスパイカー。
そのサーブは佐久早と日向のちょうどど真ん中の死角。
迷った一瞬が致命傷となり、
本日一本目のサービスエースはロメロに渡る。
硬質な打球音。
弾丸のような軌道。
次のサーブも強烈だった。
だが──────佐久早が上げる。
揺れるように見えるボールを『止めて』みせる
佐久早の技術は、本当に芸術だ。
宮侑がトスを上げる。
完璧そのもの。
穂乃真が見たら嫉妬で噛みついてきそうだ。
けれど次の瞬間、影山がカットに入った。
速い。
そして炸裂した。
あの烏野の鬼速攻──────
“変人コンビ”の超高速速攻に極めて近い、
いやそれ以上に速い新型。
日向翔陽は、もう唯一無二のセッターに頼る存在じゃない。
宮侑でもできる。
その証明を、日向自身がしてしまったというわけだ。
跳躍の最高到達点は上がった。
だが変わったのはそこじゃない。
〝上〟への到達速度が段違いに速い。
ジャンプの“完成までの時間”が短いのだ。
つまり──────世界でも止められない。
次は木兎のサーブ。
次の瞬間。
木兎は手拍子を始めた。
自分のサーブに手拍子を要求する男。
世界に祈る。
実際、世界は加勢しなかった。
星海が完璧に上げた。
会場の歓声は星海のものになり、
そのボールは牛島若利のもとへ。
牛島のスパイク。
リベロが吹っ飛ぶほどの威力。
“日本の主砲”の名は伊達じゃない。
続いて昼神のサーブ。
笛が鳴った瞬間に打ってくる。
一瞬で視界に飛び込んでくるボールは、
まるで瞬間移動しているようだ。
全ローテ有効の兵器。
なんとか上げたボールは佐久早へ。
佐久早が打つ。
影山が構える。
捕らえた──────そう思った瞬間。
そのボールは影山に当たり、逸れた。
佐久早聖臣。
あの異常な手首の柔らかさ。
スナップで無限にコースを作り、
回転を変え、タイミングを殺す。
対戦相手だったとき、あれほど嫌な打球はなかった。
牛島の左の回転よりも厄介だ。
まったく、どいつもこいつも気持ちが悪い。
でも──────
“気持ち悪いほど強い”奴らに囲まれて戦うこの瞬間が、
何より楽しい。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!