桜空見(さくら くみ)、高校三年。
物心ついたときから両親の姿はなく、母方の祖父母に育てられた。
祖父母の家は学校まで遠く、寮もないため、今はひとり暮らし。
勉強は得意。
明るくはないが、人と話すのは好き。
誰かに頼られると弱い。
そして、諦めることを知らない。
「来週、大事な話があるから帰って来れない?」
突如、祖母にそう言われた。
──そして、その“大事な話”は、私の人生をひっくり返した。
「まず1つ目。事故で亡くなったお父さんは…空見の本当のお父さんじゃないの。」
そこから語られた“母・紫苑(しおん)の真実”。
高校時代、ストーカーである同級生に襲われ妊娠したこと。
それでも生まれてきた“私”を守るために、生きるように、踏ん張ったこと。
そんな母を支えるように寄り添い、母と“私”のために医者を目指した、幼馴染の橘煌陽(たちばな こうよう)の存在。
…けれど、彼も夢半ばで事故死。
私は二人の顔を思い出そうとしたけれど、どうしてもぼやける。
写真を見せてもらって、胸が痛くなるほど愛おしくて、悔しくて。
「…なんでだろう。覚えていないのに。」
家に着き、湯船で体を温めても、心の底だけは冷たいままだった。
疲れた私は、布団に沈むように眠りについた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!