第5話

第3幕ーアンコールは許さへんー
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2026/02/25 09:00 更新
俺は“終わらせる側”やと思ってた。

世界の散らかった舞台を、
静かに整える演出家。

♪ ほーたーるのーひーかーり……

鼻歌は俺の合図。
幕を引く合図。

誰も俺の顔を覚えへん。
誰も俺を止められへん。

そう思ってた。

あの日までは。



そいつは、真昼に現れた。

人通りの多い交差点。
信号待ちのざわめきの中。

俺の隣に、自然に立ってた。

「きれいに終わらせるの、好きなんやろ?」

笑っとる。

怖がらへん。

初めてや。

「……あんた、誰や」

俺が問うと、
そいつは静かに鼻歌を重ねた。

♪ ほーたーるのーひーかーり……

俺の旋律と、まったく同じ高さで。

背筋が凍る。

「なぁ、自分の終わりは考えたことある?」

世界の音が、急に遠くなる。

信号は青のはずやのに、
誰も動かへん。

時間が止まったみたいに。

「舞台はな、ひとりやないんやで」

そいつの目は、
俺よりずっと冷たかった。

「''Curtain Call演出家''も、いつかは降ろされる」



気づいたとき、
俺は部屋におった。

見覚えのない、真っ白な部屋。

窓もない。
時計もない。

ただ、スピーカーから流れる音。

♪ ほーたーるのーひーかーり……

俺の声や。

録音された、俺の鼻歌。

壁に文字が浮かぶ。

『終演』

「……ふざけんなや」

叫んでも、反響するだけ。

ドアはない。

出口もない。

世界中のニュースが脳裏に流れる。

“Curtain Call、消息不明”

“連続失踪事件、突如止まる”

終わった。

俺の舞台が。



暗闇の向こうから、声。

「ようやく片付いたな」

あいつや。

「世界は次の幕に進むんや」

「アンコールは?」

俺が聞く。

静かな笑い。

「許さへん言うたやろ?」

照明が落ちる。

完全な暗転。



数日後。

東京の駅ホーム。

誰かが、ふと鼻歌を口ずさむ。

♪ ほーたーるのーひーかーり……

でも、声は違う。

少し低い。

少し冷たい。

「ほな、次いこか」

新しい''Curtain Call演出家”が、
ゆっくり歩き出す。

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