さーちゅん さまからのリクエストです!
初対面描写のため、蓮くんが拓実のことを
くん付けで呼ぶ設定で書いております。
ガラスの砕ける音、鉄のきしむ悲鳴。
拓実は、どこか遠くで鳴り響くようなその音の中にいた。
意識が途切れそうになるたび、
右足に襲いかかる灼熱の痛みが、
強制的に現実へと引き戻した。
蓮 「搬送できそうですか?」
消防隊員「まだ鉄パイプが撤去
できていないので動かせません!」
蓮「そうですか…拓実くん!分かる?すぐ助けるからね」
消防隊員の声が頭上で交錯する。
冷たい鉄板の隙間から、覗き込む誰かの懸命な目。
でも拓実の唇からはかすれた声しか出なかった。
「……いた……い……」
救出までに一時間以上。
右足は重たい鉄とガラスに押し潰され、
血の匂いと油の匂いが入り混じる中で
拓実は何度も意識を手放した。
⸻
病院
手術室の明るい光の下、何人もの手が彼の身体を覆った。
麻酔薬が血管に流れ込む感覚を最後に、
拓実の世界は真っ暗に閉ざされた。
⸻
次に目を開けた時、そこは静かな病室だった。
点滴の滴る音と心電図の規則正しい電子音。
視界に飛び込んできたのは白い天井で、
周囲にはカーテンが引かれていた。
「……ここ、どこ……」
かすれた声を出し、拓実は喉の乾きを覚えた。
身体を動かそうとした瞬間、
全身の鈍い痛みが押し寄せる。
それでも右足の違和感は、
それらとは比べ物にならなかった。
恐る恐る布団をめくる。
そこにあるはずの右足は――なかった。
「……え……あれ……?」
膝の途中から先は包帯に覆われ、空虚な空間しかない。
拓実の心臓が爆発するように脈打った。
「なんで……? なんでや!!!」
声を上げるや否や、拓実はベッド柵を叩き始めた。
モニターが警告音を鳴らす。
点滴の管を乱暴に引き抜き、
血がシーツににじむのも構わず、
手の届くものを次々と投げつけた。
「返せや!! 足返してぇや!!!」
「拓実くん、落ち着いて!」
駆けつけた看護師が必死に腕を押さえる。
だが9歳の子どもの力は思いのほか強く、
手を振り払ってなお叫び続けた。
「治療なんかいらん!もうなんもしたない!
放っといてや!!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、拓実は泣き叫んだ。
その時、病室の扉が開き、静かな足音が近づいた。
白衣のポケットに手を入れたまま、
若い医師がベッドのそばにしゃがみ込む。
やわらかな博多弁が、混乱の中に落ちてきた。
「……拓実くん、しんどいな。怖かったな」
その声の主は、主治医の蓮先生だった。
優しい瞳で拓実を見つめながらも、
その表情には深い痛みが刻まれていた。
「……俺、もう終わりや……足、なくなって……」
「終わりなんかじゃないけん。
ここから、一緒に頑張ろうな」
けれど拓実は首を振り、耳を塞いだ。
目の前の大人の言葉は、今はただ残酷に響くだけだった。
蓮は声をかけ続けながらも、心の中で葛藤していた。
――どうしたら、この子の
閉ざされた心を開けるんやろう。
ただの医師としてではなく、
もっと別の何かを示さなければならない。
そう決意する蓮の瞳には、
まだ誰も知らない過去の影が宿っていた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!