第12話

🦊×🍓(9)
801
2025/09/16 03:56 更新


さーちゅん さまからのリクエストです!

初対面描写のため、蓮くんが拓実のことを
くん付けで呼ぶ設定で書いております。














ガラスの砕ける音、鉄のきしむ悲鳴。
拓実は、どこか遠くで鳴り響くようなその音の中にいた。
意識が途切れそうになるたび、
右足に襲いかかる灼熱の痛みが、
強制的に現実へと引き戻した。



蓮 「搬送できそうですか?」

消防隊員「まだ鉄パイプが撤去
できていないので動かせません!」

蓮「そうですか…拓実くん!分かる?すぐ助けるからね」




消防隊員の声が頭上で交錯する。
冷たい鉄板の隙間から、覗き込む誰かの懸命な目。
でも拓実の唇からはかすれた声しか出なかった。




「……いた……い……」




救出までに一時間以上。
右足は重たい鉄とガラスに押し潰され、
血の匂いと油の匂いが入り混じる中で
拓実は何度も意識を手放した。










病院

手術室の明るい光の下、何人もの手が彼の身体を覆った。
麻酔薬が血管に流れ込む感覚を最後に、
拓実の世界は真っ暗に閉ざされた。










次に目を開けた時、そこは静かな病室だった。
点滴の滴る音と心電図の規則正しい電子音。
視界に飛び込んできたのは白い天井で、
周囲にはカーテンが引かれていた。




「……ここ、どこ……」




かすれた声を出し、拓実は喉の乾きを覚えた。
身体を動かそうとした瞬間、
全身の鈍い痛みが押し寄せる。
それでも右足の違和感は、
それらとは比べ物にならなかった。




恐る恐る布団をめくる。
そこにあるはずの右足は――なかった。




「……え……あれ……?」




膝の途中から先は包帯に覆われ、空虚な空間しかない。
拓実の心臓が爆発するように脈打った。




「なんで……? なんでや!!!」




声を上げるや否や、拓実はベッド柵を叩き始めた。
モニターが警告音を鳴らす。
点滴の管を乱暴に引き抜き、
血がシーツににじむのも構わず、
手の届くものを次々と投げつけた。




「返せや!! 足返してぇや!!!」
「拓実くん、落ち着いて!」




駆けつけた看護師が必死に腕を押さえる。
だが9歳の子どもの力は思いのほか強く、
手を振り払ってなお叫び続けた。




「治療なんかいらん!もうなんもしたない!
放っといてや!!」



涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、拓実は泣き叫んだ。




その時、病室の扉が開き、静かな足音が近づいた。
白衣のポケットに手を入れたまま、
若い医師がベッドのそばにしゃがみ込む。
やわらかな博多弁が、混乱の中に落ちてきた。




「……拓実くん、しんどいな。怖かったな」




その声の主は、主治医の蓮先生だった。
優しい瞳で拓実を見つめながらも、
その表情には深い痛みが刻まれていた。




「……俺、もう終わりや……足、なくなって……」

「終わりなんかじゃないけん。
ここから、一緒に頑張ろうな」




けれど拓実は首を振り、耳を塞いだ。
目の前の大人の言葉は、今はただ残酷に響くだけだった。




蓮は声をかけ続けながらも、心の中で葛藤していた。
――どうしたら、この子の
閉ざされた心を開けるんやろう。
ただの医師としてではなく、
もっと別の何かを示さなければならない。




そう決意する蓮の瞳には、
まだ誰も知らない過去の影が宿っていた。

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