第24話

龍骨と花たち 6
46
2026/04/17 04:32 更新
吐き気を催すような、そんな悪夢を見た。
その時の私はただ泣くことしか出来なくて、部屋の隅っこでいつもカタカタと震えていて。
………ただ1人で、夜が明けるのを待つ。そんな夢。












天窓から差し込む陽の光で、私は目を覚ました。
あれからいったい何時間が経過したのか分からないけど、少なくともまだ明るい時間帯。
あなた
………長門
赤く染まる視界の中、腹這いになって進む。
名取
あれー、目覚めたの? 見た目より頑丈だね
ひゅっと息が止まったと同時に、名取は私の腕を掴んだ。
名取
思ったより風鈴が来るの遅いんだよねー。安西って奴と桜…だっけ? そいつらは来る予定なんだけど
私の誤算だけれど、KEELは想像より遥かに人数が多い。桜たちと、せめて級長クラスに強い人を呼ばないと。
あなた
……組織間での争いはタブーだから、来る確率は低いよ。貴方たちは風鈴を神聖化しすぎてる
今嘘をついた。きっと風鈴はここにやって来る。
まだ確信には至っていないけど、おそらくこれは物語の一部だから。いやおそらく、きっとそうでなくても。風鈴は私たちを見捨てはしないはず。
あなた
(……私も大概神聖なものだと思ってる)
助けに来る確証なんて無いのに。
私は人を信用しない。いつだって、自分のことは自分で何とかしてきた。今回は私じゃなく長門が困っていたから頼ったけど、個人で助けを求めたりなんかしない。
……だから今回も、私が何とかしないと。
あなた
貴方たちの目的はお金? 組織を拡大するための権力? それとも、ただ恐怖で縛り付けたいだけの人格破綻者?
名取
……その全部って言ったら?
相手の要求を聞き出して、どうにか譲歩案を提示する。のが交渉の定石だけど。
お金と権力ならまだ口で丸め込めそうだけど、流石に恐怖を植え付けたいっていう性癖を満たすのは骨が折れる。
あなた
………私が好きなだけ怖がってあげるから、せめて長門には何もしないで。そして、元の場所に帰してあげて
名取
随分優しいんだ
優しいんじゃない。ただ、長門はこの場所に相応しくないだけ。
名取
一考の余地ありって感じかなあ。……君は良い声で泣いてくれそうだし
腕を掴む力が徐々に強くなる。
痛みで顔を歪めると、入口の方からけたたましい音が響いた。
あなた
皆んな
風鈴も想像より多くの人数が来ていた。けれど全員1年生のようで、2年や3年の先輩の姿は見えない。役不足とは言わないけど、明らかに人数が足りない。
名取
あららー、団体様のお越しだー
名取
予約は1名さまだったはずだけど…
名取は私の手を使って、桜たちの方に手を振った。
名取
手でも振ってあげなよ。おーいって
あなた
い゛っ……!
身体中に激痛が走る。安西は私を見た後、その場で横たわる長門を見て勢い良く駆け出した。
それを止めたのは桜だった。
名取
てゆーか全員風鈴だよね、風鈴って街を守る奴らなんでしょ。個人の揉めごとにも首突っ込むの?
桜遥
オレは風鈴として来たんじゃない。個人的な用で、長門を連れて行かなきゃいけない所がある
桜遥
………それに、あなたの花宮は無関係の人間だ。そいつらをよこせ
名取
えーやだよー。こいつうちのノルマ全然達成してないし、こっちの女はまだまだ使い道が
桜遥
お前らの意見は聞いてねぇ。よこせ
名取は近くに居た仲間に目配せをすると、桜に舌を見せて挑発した。
桜遥
そうか……邪魔すんなら仕方ねぇよな
桜遥
お前らぶっ飛ばしてから連れてくわ
その時の桜は、珍しく心から憤りを感じているように見えた。
長門のことを想って駆け付けてくれたらしい。風鈴はやっぱりそういう人たちだ。何度も見返したから、数少ない記憶でもそれだけは覚えてる。
名取
そんな多勢でカチコミかけてくるとか、街のヒーローがやることなの?
名取
だからさ、こっちも良いよね
こいつどの口で、と思わず悪態が出かけたが口を閉じた。
KEELは話に聞いていたよりもずっと大規模な組織で、人数は1年の多聞衆の2倍3倍は多い。喧嘩慣れしている人たちの集まりとはいえ、数の差は戦局を不利にする。
桜遥
……お前らは下がってて良いぞ。オレ1で十分だ。お前らはこぼれ球でも拾っとけ
大勢に囲まれて腰が引けていた全員の気を取り直したのは、桜だった。煽りとも激励ともとれる宣言をすると、分かりやすく空気が変わる。
互いにしばらく睨み合うと、最も危惧していた全面的な構想が始まった。

プリ小説オーディオドラマ