止む気配がないキスコール(?)に困り果てていると、弟は私の前に立ち、手を差し伸べてくる。
意味がわからないままその手を掴むと、ぐいっ、と力強く引っ張られる。
私は咄嗟のことでなにもできず、弟の腕の中にすっぽりと収まるような形になった。
瞬きを繰り返す私の耳元で、いつものテノールボイスで名前を囁く。
こいつ、私が耳弱いの知っててやってんのかな。
確信犯だ。
上鳴くんの言葉で我に返る。
そうだ、みんな見てるんじゃん。
私は離れようと身じろぐが、弟は離そうとしない。
みんなの視線が痛い。
そして安定のキスコール(?)。
もうやだ、勘弁してくれ。
胸板を押してみるが、やっぱり離れない。
みんなが見てる前でキスなんて、できるわけないでしょーが。
弟は言葉を途切れさせると、再び私の耳元に顔を寄せる。
ぶわっ、と顔が熱くなる。
「姫顔赤いぞー」って茶化すのはどこのどいつだやかましい。
耳弱いから赤くなってるだけなんだからね。
弟の声が良いとかそんなんじゃないんだからね。
辞めてくれと顔で訴えるが、彼女はにんまりとした笑みを浮かべて満足そうなご様子。
だいたい、こんなの見てなにになるんだよ。
デメリットしかないと思うんだが...。
ふに、となにかが唇に触れる。
周りから「おお〜!!」と歓声が起こったのと、私の顔が真っ赤になったのが同時だ。
差恥から、私は両手で顔を覆って床にぺたりと座り込む。
まだ姉弟だったから良かったものの...。
完璧に黒歴史じゃんか、これ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!