第292話

No.292
10,690
2020/12/27 08:35
止む気配がないキスコール(?)に困り果てていると、弟は私の前に立ち、手を差し伸べてくる。





意味がわからないままその手を掴むと、ぐいっ、と力強く引っ張られる。





私は咄嗟のことでなにもできず、弟の腕の中にすっぽりと収まるような形になった。







轟焦凍
あなた







瞬きを繰り返す私の耳元で、いつものテノールボイスで名前を囁く。





こいつ、私が耳弱いの知っててやってんのかな。





確信犯だ。







上鳴電気
いいぞ〜!そのままいけ〜轟!
あなた
は、えっ、ちょっ







上鳴くんの言葉で我に返る。





そうだ、みんな見てるんじゃん。





私は離れようと身じろぐが、弟は離そうとしない。





みんなの視線が痛い。





そして安定のキスコール(?)。





もうやだ、勘弁してくれ。







あなた
ちょっと、離れてよ
轟焦凍
けどみんなキスしろ、って言ってるぞ?
あなた
私はしたくないの







胸板を押してみるが、やっぱり離れない。





みんなが見てる前でキスなんて、できるわけないでしょーが。







轟焦凍
...俺はキスしてぇけどな
あなた
なんでよ
轟焦凍
だって、







弟は言葉を途切れさせると、再び私の耳元に顔を寄せる。







轟焦凍
あなたは俺のもんだ、って示せるから
あなた
っ、







ぶわっ、と顔が熱くなる。





「姫顔赤いぞー」って茶化すのはどこのどいつだやかましい。





耳弱いから赤くなってるだけなんだからね。





弟の声が良いとかそんなんじゃないんだからね。







芦戸三奈
ねー早くキスしてよー
あなた
み、三奈ちゃん...!







辞めてくれと顔で訴えるが、彼女はにんまりとした笑みを浮かべて満足そうなご様子。





だいたい、こんなの見てなにになるんだよ。





デメリットしかないと思うんだが...。







轟焦凍
あなた、こっち向けよ
あなた
は、なに言って...んんっ!?








ふに、となにかが唇に触れる。





周りから「おお〜!!」と歓声が起こったのと、私の顔が真っ赤になったのが同時だ。







轟焦凍
これでいいか?
芦戸三奈
大、満、足、ですっ!!
上鳴電気
ヒュー!お熱いねぇ、お二人さん!
麗日お茶子
仲良しなんやねぇ
緑谷出久
僕はなにも見てない、僕はなにも見てない、僕はなにも...
切島鋭児郎
やっぱ漢だぜ轟!
耳郎響香
生キス...初めて見た
飯田天哉
は、ははははハレンチだぞっ!!
葉隠透
飯田くん、落ち着いて落ち着いて
あなた
もうやだ...







差恥から、私は両手で顔を覆って床にぺたりと座り込む。





まだ姉弟だったから良かったものの...。





完璧に黒歴史じゃんか、これ。

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