放課後
ガラガラッ
『失礼しまーす』
「…」
「女子…」
なんだか、思ったより陰気だ。
暗いところは苦手ではないけど、部室に入った瞬間のむわっとした生暖かい空気は苦手だった。
つかその女子とか男子とかいう括り記憶が蘇ってからなんか気恥ずかしくて嫌い。
「あ、あー。なんのようだい?」
3年生と思われる黒縁メガネが話しかけてきた。
第一印象って大切だよね。
出来るだけにこにこしなきゃ。
『今日から研究部員になりました!あなたの名字あなたです。よろしくお願いします!』
お辞儀をしてから顔を上げて部室の中を見渡しくまなく探す。
…までもなく千空は部室の真ん中を陣取ってフラスコと試験管を楽しそうに持っていた。
あ、私の自己紹介一つも聞いてねーな!
部員が増えようが減ろうがどうでもいいんだな!
おっけ!把握!
あんま急に話しかけるのとかできないタイプだから
とりあえず、私に向かってなんかずっと話してる部長の話に耳を傾ける。
ちなみに先ほどの黒縁メガネ先輩が部長だった。
黒縁メガネ部長曰く、この部活は研究したいことをそれぞれで研究する部活らしく、特に縛りはないらしい。
それだけ説明して黒縁メガネ先輩は黒板の前の作業台に戻って行った。
なるほど、
本を読んでる人、フラスコの中身を一心不乱に見つめる人、なんかゴーグル的なものをつけてバチバチやってる人…え、あれ私裸眼で直視していいんか?
ともかく、それぞれだった。
…なんだか、千空大先生との絡み難しそうだな。
とりあえず、私のやるべきことは研究題材を決めることだった。
うーーーん
本読んでる人いるからとりあえず図書室行って決めよう。
いや、そんなことより千空となんとか自然な絡みを…!
とかなんとか、もんもんと考えていたら図書室到着。
ワオとても近い。
特に何も決まっていないので様々なコーナーを順番に見てく。
ふと目に止まった本
"サバイバル入門"
………どうせ何を研究してもいいなら
石化が解けたあと役に立つ方がいいだろう。
それにこれはかねてから私が危惧しているゾンビ出現後の世界でも使える。
あ、それゾンビの世界で役立つ!とか口走るとみんな否定してくるけどどっからその自信出てくんの?100パーないわけではないでしょ。
ということで、この本は部活関係なしに読み込んでノートにでもまとめてちゃんと記憶しようと思った。
パラパラ開いた感じも読みやすそうだし、借りよう。
あとはー、理科・科学系で気になる分野…。
確か千空さんの頭の中は宇宙でいっぱいなんだったよね。
それとかけ離れずに…興味あるものー、うーん?
いや、まてまて
宇宙云々の前に石になったあと原始時代なんだよね。
そこで役に立つ方が一石二鳥よね。うーん…?
尚更難しくなってきた…。
動物の研究は役に立ちそうだし、怪しまれなさそう。
化学感はないけど立派な科学だ。
千空がやってたのは化学っぽかったけどそこまで合わせてらんないから、よし。
なんか、千空の父ちゃん作った村の科学大好きっ子(名前忘れた)が石とか漢方とか集めてた気がするから
とりあえず石の本と漢方の本も入れとくか。
確かお姫様の薬とか作るんだったよね。ラーメンとか。
なんで薬作るのにラーメン出てくんだっけ?
ま、いいや。
とりあえず、サバイバル一冊、動物の本一冊、石の本ニ冊(2部構成だった)、漢方薬の本一冊。
の計5冊を借りることにした。
部室で読むのは石の本かな。
ガラガラガラッ…
部室の扉を開けるとそこにはそびえ立つ人間がいた。
『!?ぅお!』バサバサバサバサ
全く予想していなかったので、ぶつかったうえに持っていた本を全て落とした。
「ぁ"あ"ー、わりぃ。」
『ん?あ…!!どーも。』
「あ"?」
千空じゃーーーーーん!
なーーーーんにも(心の)準備してないんですけどおおおお!
お、ぉお落ち着けぇえ…!
ここは穏便にぃ…!いや、なんでどーもとか言っちゃったんだ!?
こないだのネジの件で一応顔は知ってるから挨拶しないのはどうかと思った律儀な心で挨拶をしてしまった私は、
千空のお前誰だっけリアクションを見てヨコヅナイワシの生息地より深い後悔をした。(?)
『あ、いや、やっぱ今のなしで。ぶつかってすみませんでした!!!』
じゃっ!と立ち上がった私は間近で見る千空がイケメンすぎて本の存在をすっかり忘れていた。
今のなしってなんだよ!?わけわからんすぎだろ!
ドキドキが止まらなすぎて息ができない。
「…本全部忘れてんぞ。借りに行って帰ってきたところじゃねーのか?逆にスゲーな。」
素早く自分の鞄のところに戻った私の元に千空大先生が、半笑いでわざわざ届けにきてくれた。
え、マジときめき凄すぎて息できないんだけど。
破壊力2000。
『ご、ごごごごめんなさいぃぃ…。』
「どんだけどもってやがんだ?ククク、」
忘れてた私バカすぎて恥ずかしさ5000。
合わせて7000のダメージを負った。
息ができないが故にどもりまくって謝った私を千空さんはわりかしにこやかにかわして、踵を返した。
こ、これで息ができる。よかった。
と安心したのも束の間くるっと振り返った千空はこちらを見て何を考えてるようだった。
え?なに?怖い。考えてる顔もイケメンだから窒息しちゃう。(?)
「河川敷の…」
『え?…あ、そー!ネジ!』
「あ"ー、だからどーもか。」
『そなの。』
「石神千空だ。よろしくな。」
『え!?あ、うん!私はあなたの名字あなたです。よろしく!』
テレレレッテレーン☆
図らずも千空さんとよろしくできた!
⇨
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!