第44話

41話
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2025/11/20 08:15 更新
ヨンジュン Side

スビナが小さく「……うん」と答えた瞬間、
胸の奥で何かが弾けた。

(……やっと、触れられた)

久しぶりの距離。
久しぶりの温度。
久しぶりの “二人だけ” の空気。

腕の中でスビナが少し震えて、
その反応が全部、胸の奥に落ちてくる。

Y:「……スビナ、大丈夫?」

S:「ん……だいじょうぶ……」

その声が甘くて、
俺の呼吸のほうが乱れそうだった。

触れたところから、
お互いの体温がゆっくり重なっていく。

ソファの淡い影の中、
スビナの指が俺のパーカーを掴んだ。

その瞬間——

(……もう離れたくない)

気持ちが全部あふれて、
夜は静かに、深く、長く続いた。

そのあと二人で肩を寄せ合って、
ただゆっくり息を整えながら過ごした。

外の世界は真っ暗で、
俺たちだけの時間だけがやさしく流れていた。

月日が経つのは早い。

ボムギュはいつの間にか掴まり立ちが上手になり、
よちよち歩きも少しずつできるようになった。

朝、玄関で靴を履かせるたび、
小さな足がちょこんと動く。

ボムギュ:「ぱぱ……まま……いく……」

S:「あぁ〜もう可愛い……保育園デビューの日だよ?」

Y:「泣くかと思ったけど……全然平気そうだな」

ボムギュは保育園の門を見た瞬間、
きゃあっと笑って走りだす。

S:「……強すぎない?」

Y:「誰に似たんだろうな……?」

そう言って笑い合った。
俺たち二人とも、なんだか胸がじんわりした。

初めてボムギュを預けて、
二人きりの朝の静けさが帰ってくる。

Y:「……なんか、変な感じだな」

S:「うん。嬉しいような、寂しいような」

その肩に手を置いて、
俺はそっと笑った。

Y:「じゃあ……二人で朝ごはん、久しぶりに食べる?」

S:「……いいね」

小さな日常の変化が、
ゆっくりと家に新しい風を吹き込んでくれた。

3歳になると、
ボムギュは保育園のお友達の名前を覚えたり、
おしゃべりも上手になった。

ボムギュ:「ぱぱ〜! きょーね、てんてーと……あのねっ……えっとね……!」

言葉が追いつかなくて興奮しすぎて噛むのも可愛い。

S:「ゆっくりでいいよ、ボムギュ。全部聞く」

ボムギュ:「……ん! まま、すき!」

S:「も〜〜〜……!!」

Y:(……可愛すぎるだろ……)

家の中が明るくて、
笑い声が絶えなくて、
ボムギュが生まれてからの日々はいつも新しかった。

3歳になったボムギュは、
とにかく毎日が全力だった。

Y:「ただいま〜……お? ボムギュ、今日も元気だな」

ボムギュ:「ぱぱーー!!きょーね! きょーねっ!!」

足にしがみついてくるボムギュを抱き上げると、
いつものいい匂いがして、頬をすり寄せてくる。

Y:「お、落ち着け。順番に言ってみ?」

ボムギュ:「んーとね……てんてーがね……ボムギュ、すきって……!」

Y:「そうか〜、よかったなぁ」

ボムギュが笑うと、俺まで疲れが抜けていく。

……だけど。

その明るさとは裏腹に、
スビナの様子がちょっとだけおかしかった。

キッチンで夕飯の準備をしていたけど、
途中で手が止まって、息をゆっくり吐いている。

Y:「スビナ、どうした?」

S:「ん……なんか、ちょっとめまいしただけ」

ヨンジュン:(またか……)

最近、こういうのが増えている。

食事の匂いでふっと顔色が悪くなったり、
朝起きるときに少し苦しそうだったり。

でもスビナは、いつもみたいに笑って、

S:「大丈夫。すぐ治るから」

そう言って無理に動こうとするから、
余計に心配になる。

Y:「無理すんなって。俺がやるから」

S:「え、いいよ。ボムギュの面倒みてあげて」

ボムギュ:「まま〜? げんきなの〜?」

S:「げんき、げんき。ボムギュのこと、大すきだよ」

ボムギュの頭を撫でるその手が、
ほんの少しだけ震えていることに、
スビナ自身は気づいてないだろう。

Y:(……やっぱり変だ)

スビナは、俺がジッと見てることに気づいて、
逆に笑って誤魔化そうとする。

S:「そんな顔しないでよ。心配しすぎ」

Y:「心配するだろ。」

そう言うと、スビナは照れたみたいに目を逸らした。

S:「……大げさなんだから」

でも、
その小さな笑顔の陰で
疲れたような影が一瞬だけ見えた。

胸の奥がじくっと痛む。

Y:(……ほんとに“ちょっと”か?)

ボムギュは無邪気に笑い続けている。

ボムギュ:「ぱぱ! ままとあそぶのー!」

Y:「ああ。遊ぼうな。……スビナ、無理はすんなよ」

俺が少し強めの声で言うと、
スビナはほんの少しだけ驚いた顔をして、

S:「……わかった。ありがと、ヨンジュナ」

その声が、いつもより弱くて。

それが余計に、嫌な予感を呼び込んだ。

(……絶対、明日一度病院連れてく)

そう心の中で強く決めた瞬間、
ボムギュの笑い声が部屋に響いて、
その明るさだけが救いに思えた。

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