ヨンジュン Side
スビナが小さく「……うん」と答えた瞬間、
胸の奥で何かが弾けた。
(……やっと、触れられた)
久しぶりの距離。
久しぶりの温度。
久しぶりの “二人だけ” の空気。
腕の中でスビナが少し震えて、
その反応が全部、胸の奥に落ちてくる。
Y:「……スビナ、大丈夫?」
S:「ん……だいじょうぶ……」
その声が甘くて、
俺の呼吸のほうが乱れそうだった。
触れたところから、
お互いの体温がゆっくり重なっていく。
ソファの淡い影の中、
スビナの指が俺のパーカーを掴んだ。
その瞬間——
(……もう離れたくない)
気持ちが全部あふれて、
夜は静かに、深く、長く続いた。
そのあと二人で肩を寄せ合って、
ただゆっくり息を整えながら過ごした。
外の世界は真っ暗で、
俺たちだけの時間だけがやさしく流れていた。
月日が経つのは早い。
ボムギュはいつの間にか掴まり立ちが上手になり、
よちよち歩きも少しずつできるようになった。
朝、玄関で靴を履かせるたび、
小さな足がちょこんと動く。
ボムギュ:「ぱぱ……まま……いく……」
S:「あぁ〜もう可愛い……保育園デビューの日だよ?」
Y:「泣くかと思ったけど……全然平気そうだな」
ボムギュは保育園の門を見た瞬間、
きゃあっと笑って走りだす。
S:「……強すぎない?」
Y:「誰に似たんだろうな……?」
そう言って笑い合った。
俺たち二人とも、なんだか胸がじんわりした。
初めてボムギュを預けて、
二人きりの朝の静けさが帰ってくる。
Y:「……なんか、変な感じだな」
S:「うん。嬉しいような、寂しいような」
その肩に手を置いて、
俺はそっと笑った。
Y:「じゃあ……二人で朝ごはん、久しぶりに食べる?」
S:「……いいね」
小さな日常の変化が、
ゆっくりと家に新しい風を吹き込んでくれた。
3歳になると、
ボムギュは保育園のお友達の名前を覚えたり、
おしゃべりも上手になった。
ボムギュ:「ぱぱ〜! きょーね、てんてーと……あのねっ……えっとね……!」
言葉が追いつかなくて興奮しすぎて噛むのも可愛い。
S:「ゆっくりでいいよ、ボムギュ。全部聞く」
ボムギュ:「……ん! まま、すき!」
S:「も〜〜〜……!!」
Y:(……可愛すぎるだろ……)
家の中が明るくて、
笑い声が絶えなくて、
ボムギュが生まれてからの日々はいつも新しかった。
3歳になったボムギュは、
とにかく毎日が全力だった。
Y:「ただいま〜……お? ボムギュ、今日も元気だな」
ボムギュ:「ぱぱーー!!きょーね! きょーねっ!!」
足にしがみついてくるボムギュを抱き上げると、
いつものいい匂いがして、頬をすり寄せてくる。
Y:「お、落ち着け。順番に言ってみ?」
ボムギュ:「んーとね……てんてーがね……ボムギュ、すきって……!」
Y:「そうか〜、よかったなぁ」
ボムギュが笑うと、俺まで疲れが抜けていく。
……だけど。
その明るさとは裏腹に、
スビナの様子がちょっとだけおかしかった。
キッチンで夕飯の準備をしていたけど、
途中で手が止まって、息をゆっくり吐いている。
Y:「スビナ、どうした?」
S:「ん……なんか、ちょっとめまいしただけ」
ヨンジュン:(またか……)
最近、こういうのが増えている。
食事の匂いでふっと顔色が悪くなったり、
朝起きるときに少し苦しそうだったり。
でもスビナは、いつもみたいに笑って、
S:「大丈夫。すぐ治るから」
そう言って無理に動こうとするから、
余計に心配になる。
Y:「無理すんなって。俺がやるから」
S:「え、いいよ。ボムギュの面倒みてあげて」
ボムギュ:「まま〜? げんきなの〜?」
S:「げんき、げんき。ボムギュのこと、大すきだよ」
ボムギュの頭を撫でるその手が、
ほんの少しだけ震えていることに、
スビナ自身は気づいてないだろう。
Y:(……やっぱり変だ)
スビナは、俺がジッと見てることに気づいて、
逆に笑って誤魔化そうとする。
S:「そんな顔しないでよ。心配しすぎ」
Y:「心配するだろ。」
そう言うと、スビナは照れたみたいに目を逸らした。
S:「……大げさなんだから」
でも、
その小さな笑顔の陰で
疲れたような影が一瞬だけ見えた。
胸の奥がじくっと痛む。
Y:(……ほんとに“ちょっと”か?)
ボムギュは無邪気に笑い続けている。
ボムギュ:「ぱぱ! ままとあそぶのー!」
Y:「ああ。遊ぼうな。……スビナ、無理はすんなよ」
俺が少し強めの声で言うと、
スビナはほんの少しだけ驚いた顔をして、
S:「……わかった。ありがと、ヨンジュナ」
その声が、いつもより弱くて。
それが余計に、嫌な予感を呼び込んだ。
(……絶対、明日一度病院連れてく)
そう心の中で強く決めた瞬間、
ボムギュの笑い声が部屋に響いて、
その明るさだけが救いに思えた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!