第8話

Log7
264
2025/07/02 14:31 更新




…できれば、下の名前を…



あなた
苗字みょうじだけではなにか問題が…?



































星導ショウ
俺の名前も、星導なので。




その言葉に、軽く目を見開く。



星導は珍しい苗字のはず…。
初めて同じ苗字の人を見た。


というか、『星導』が被ることあるんだ。




星導ショウ
そっか、先にこっちが
自己紹介した方がいいですね。

星導ショウ
星導ショウ、二十歳はたち、大学生です。





確かに、同じ苗字では
会話に混乱が生じかねない。






理解して、私も名乗る。


あなた
星導あなたの下の名前です。



星導ショウ
あなたの下の名前さん。

  

あなた
はい。貴方は星導さん、で、よろしいですか?



言葉にして確認する。

名前につける敬称も
これで間違いないか確かめるつもりで。



星導さんはウッドテーブルに
肘をつくと、こちらの物言いを
面白がるような表情で『よろしいです』
と笑った。











会話を終えて読書に戻ると、
再び星導さんがカードを切り出した。



リハビリの一環だろうか。


星導さんは飽きることなく
同じ動作を繰り返す。







薄いカードを軽く曲げたり、
指先で弾いたり。


脳電義手を使っているとはいえ
見事なものだ。指先の感覚はないはずなのに。






近年開発された脳電義手は、
従来の筋電義手より飛躍的に
性能が向上している。


その違いは、じゃんけんが
できるかできないかですぐわかる。





筋肉信号をよむ筋電義手は、
大雑把に言うとパーとグーの
動きしかすることができない。

力を入れれば握る、緩めれば離す、
といった程度の単純な動きがせいぜいだ。



対して脳電義手は、チョキの形を
作ることができる。つまり、
各指を独立して動かすことができる。




使用者の訓練次第では、
生身の人間とほとんど遜色なく
動かすことも可能だ。









だからどちらの義手も、
指先の感覚を脳にフィードバックする
ことはできない。


カードの固さや冷たさ、
表面のつるりとした感覚は知覚できないのだ。







…にも関わらずカードを切る
星導さんの手捌きは鮮やかだ。


もたもたとページをめくる
私の手よりずっとなめらかで、
つい視線が引き寄せられる。




本を読もうと思ったのに、
なかなか紙面に視線が戻らない。



星導ショウ
その本、面白いですか?




カードを切る手は止めないまま、
星導さんが私に声をかけてくる。


本に集中していないことを
気取られたけどられたのかと、とっさに
視線を落として頷いた。



星導ショウ
どんな内容?



あなた
人工知能と会話をすることは
可能なのか考察した本です。



カードを持つ星導さんの
手が一瞬止まった。

興味を惹かれたのか、
私の持つ本の背表紙に視線を寄越す。





星導ショウ
……そんな事できるんですか?



あなた
一応、可能です。




プリ小説オーディオドラマ