防音室を出てから、一度も目が合わない。
タカシくんは顔を真っ赤にしたまま、無言で機材を片付けている。
おれも、自分の心臓の音がうるさすぎて、何を喋ればいいのか分からない。
さっきの、カイくんとリョウガくんの顔。
……絶対、全部バレた。
タカシくんが、おれの手を握ろうとして――一瞬、おれは反射的にその手を避けてしまった。
タカシくんの手が、空中で止まる。
気まずい沈黙。
おれは自分から歩き出した。
ロビーを通る時、カイくんとリョウガくんが何か言いたげにこっちを見ていたけど、会釈だけしてスタジオを飛び出した。
夜の空気は冷たい。
隣を歩くタカシくんの気配が、今はひどく重く感じる。
さっきのキス。タカシくんの本音。
嬉しかった。まだ好きだと思った。
でも、それと同じくらいの速さで、あの日の「おれたち、別れよか」って言われた時の絶望感が、フラッシュバックする。
おれは立ち止まって、タカシくんを振り返った。
一度冷え切った関係は、そう簡単に元通りにはならない。
期待して、また裏切られるのが、おれは死ぬほど怖いんだ。
タカシくんが、悲しそうに眉を下げた。
その顔を見たくなくて、おれは視線を地面に落とす。
おれはタカシくんの返事を待たずに、駅の方へ走り出した。
追いかけてきてほしい気持ちと、放っておいてほしい気持ち。
おれの感情はぐちゃぐちゃになっていた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!