第8話

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2024/12/16 11:58 更新









あれから時は過ぎ、季節は春。


俺は無事、両親の希望通りの志望大学に合格し、キャンパスライフを送っていた。











だけど、スンミニはいない。










あれから今まで結局一切連絡もなく、音沙汰も無い。




俺は何度も電話をかけたしスンミニを探した。


だけど、電話をかけた数だけ流れる電子的な声。

「この電話番号は現在使用されておりません」


何度かけても、冷たくそう流れるだけだった。



















cb
ヤージソンア!!なに上の空でぼーっとしてんだ!
hn
うわっ!!…なんだ、チャンビニヒョンか


大きな声で俺に話しかけてくるこの人はひとつ上の先輩のチャンビニヒョン。 



高校の頃から何かとお世話になっていて、何の縁か分からないけど大学まで一緒だった。




そんなチャンビニヒョンに付き纏われてる理由、なんだけど…。




cb
サークル!入る気になったか?



そう、サークルの勧誘。



もうひと通りみんな入っていて、勧誘なんてしてる人もほとんどいない。


だけどなぜかこのヒョンは俺に執着してくる。


それも、そのサークルは人が少なすぎて存続の危機を迎えているらしい。




cb
まじで頼む…!チャニヒョンが卒業したらもう俺ひとりになるんだよ!ジソンイしかいないんだよ!!
hn
そもそも、2人しかいないのにサークルって呼べるの…


俺がそう言っても、聞きすらしてない。

cb
お前、音楽の方に進むつもりだったんだろ?それならぴったりだしさ、このサークル。
hn
そうだけど…


チャンビニヒョンが所属するサークル(仮)は音楽関連のサークルらしく、演奏だけじゃなくて作曲とかもしてるらしい。


正直入ってもいいけど、ここまで来たら意地なんだよな。チャンビニヒョンが絡むといつもこうなるのが俺の悪いところだと思う。


cb
だろ!!そうと決まれば今日の授業後見学に来い!
cb
何限終わり?
hn
えっ…、2限
cb
オッケー、俺今日一限だけだからジソンイの授業終わるまで待っといてやるよ
hn
いやいやオッケーじゃなくて…
cb
じゃあ、そういうことで。よろしく!



言いたいことだけさっと言ってさっと帰っていったチャンビニヒョン。


言いたいことは山程あるんだけど…流石に年上だしすっぽかすことも出来ないからなぁ。


まあ見学だけさせてもらったらいいだけだし。

結構本格的にやってるらしいから逆に見れてラッキーだと思おう。


そんなことを考えながら授業に向かった。






















『授業終わったら2階の奥の相談室な』





一時間くらい前に来てたチャンビニヒョンからのカトク。

チャンビニヒョン曰く、教授に頼み込んで使われていない相談室を開けてもらって使っているそうだ。



分かった、と返信しようと文字を打ち込んでいると、また新たなメッセージが届く。







『ごめん、ちょっと野暮用で外出てるけどすぐ戻るから部屋でゆっくり待ってて』

『鍵は開けてある』





俺はチャンビニヒョンに言われた通り、部屋でゆっくりヒョンの帰りを待とうと思って


自販機でコーヒーを買い、相談室へ向かった。

























校舎の割に古びた部屋。

ドアを開ける時なんか、ガタガタ音を立てて凄くうるさい。




hn
…失礼、しまーす……


誰もいないとは知りつつも、初めて入る部屋に緊張するのは事実。


誰に向けたわけでもないけど、恐る恐る失礼しますと空間に言った。











だけど、この部屋にいたのはどうやら俺一人じゃないらしく。











奥にぼんやりと人影が見えた。



少しびっくりしながらも、チャンビニヒョンがいつも言ってる“チャニヒョン”を思い出す。

チャンビニヒョン、そういうのは事前に言っといてよ…、と、少し緊張しながら挨拶に向かった。

















俺の考えは的中せず。







……そこには、見慣れた背中がすうと伸びていた。

















hn
……ス、…スン、ミナ……、?









間違いない。




無駄に伸びやがった背に、栗色のふわりとした頭髪。

服のセンスは微妙。だけどスタイルが良いから良く見える。



なにより、…なにより


この一室の中でもっとも堂々とそびえ立つ、


スタンドマイクに釘付けなところ。











あの頃と同じ。





キムスンミンだ。










hn
…スンミナ!!


感動の再会。

俺の一声から始まり、両者ともに涙を流し、熱いハグを交わす ────────








なんてことは無く。




スンミニは、振り向きもしない。





…え、人違い?


いや、そんなわけない。





hn
スンミナ…?




え、まさかの無視?


いやいや有り得な……


……スンミニならやりかねない。






そっちがその気なら、こっちだって。



俺は絶対に知らんふり出来ないように、スンミニの正面に回った。









hn
スンミナっ!!





かちん、と目が合う。





sm
っ、!?



ガタガタっ、と音を立てて、その辺にある机を動かすほど驚いたスンミナ。




…変だな?


俺がいることは気付いてたはずなのに。







だけどそんなこと気にしてられないほど言いたいことが山程ある。




hn
スンミニお前っ、なんで急に音信不通になるんだよ!
hn
そこらで死んでるんじゃ、って心配したし…
hn
あとなんでアカウント消したの!?もう音楽やらないのかと思ったらこんなとこにいるしさぁ
hn
ていうか、スンミニもこのサークル入るの!?



…はぁ、あまりの興奮で早口でたくさん言ってしまった。


これしたらいつもスンミニが「なんにも理解出来なかったし…オタク口調…」って顔を顰めてため息をつくからなぁ。






だけど今日のスンミニは、何も言ってこなかった。





sm
………




え、無視か?無視なのか?




俺、嫌われたから音信不通で縁切られてたとか?




もしそうなら結構しんどいやつなんだけど……




hn
…なんで返事してくれないんだよ、もう俺のことなんかうざくなった?



思わず語気がだんだん荒くなってしまう。


hn
転校したのも、俺と離れられて清々した?…今もだるいよな、こんな問い詰められて!
hn
俺は必死で音楽やってきたのに、お前は何して…、




ぱっとスンミニと目が合う。



スンミニを見て、ギョッとした。




目に涙を溜めて、悔しそうな表情を浮かべていたから。







sm
……っ、、う、、ぅ、さ…ぃ……っ




舌ったらずな口調に少し驚いた。



けど、それよりも。

hn
っ、…え、なに…、






スンミニは、急に手を使ってジェスチャーのようなものをしてきた。


悔しそうな顔で、震えながら。



そっちの方が何倍も驚いた。




hn
…なに、なんなの……、俺、分からないって、…ジェスチャーゲーム、?苦手だし……、




分からない、分からないと繰り返していると、スンミニは諦めたように下を向き、俺が引き止める間も無く早足で部屋から出て行った。










hn
ぁっ、……、なんなんだよ、……








追いかけようとドアに手をかけた矢先。



ブブッとなる携帯のバイブレーション。






確認すると、チャンビニヒョンからだった。








『もう着くからな!待ってろよ!』







と一件のメッセージが。




hn
…っ、ぁあクソっ、



俺はスンミニを追いかけることなく、その場でチャンビニヒョンの帰りを待つことにした。










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