昼間あれほど賑やかだった教室も、5時を過ぎれば静寂を取り戻し始める。
春風が木々を揺らす音を聞きながらゆっくり深呼吸。
それと同時にガラガラと引き戸が開かれて、俯きがちな松村くんがボソリと失礼しますとつぶやく声が聞こえた。
聞こえないレベルに小さい声を拾いながら、目の前の席を彼に促す。
…あんなに頭でシュミレーションしたはずなのに、別に急かされてるとかでもないのに何故か心臓が急いている。
松村くんは相変わらず俯いて何も言わない。
私がリードしないといけないのよね
しっかりしなさい、桜井あなた。
自分が提出した白紙の用紙と私の顔を何度も目で往復している。
教卓から見る松村くんは、中学三年生にしては随分大人びているふうに見えていた。
いつも落ち着いているし、真面目で肝が座っている子。
でも今目の前にいるこの子は教卓から見る時よりも小さく年相応に幼い顔をしている。
なにかに怯えるように、様子を伺うような目
行くべきですか?それは彼は行きたくないという意志の裏返しだろう。
担任なら生徒の学力に見合った学校を勧めなければいけないのは知っている。
でもそれが必ずしも正解では無いって事を私は身をもって証明した。
だから、その目を見て自信を持って言える。
聞いといてなんだその反応、と思わず言いそうになった。
けれど喉元まで来たその単語たちは私の口から発せられることは無かった。
やっと顔を上げた松村くん。長い前髪の中の目は、何かを諦めた人間の目だった。
彼の言葉が咀嚼できないうちに、松村くんは背中を向けていた。
「真っ当」「レールから外れてる」
人ずてに聞いた彼、私が見てきている彼はレールを外れているような人では無いのに。
松村くんの口からどうしてそんな言葉が出たのか。何が彼をそうさせたのか











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!