第19話

🪽終章 灯 永遠の光
19
2025/10/27 06:00 更新
夕暮れの街並みは、黄金色に染まっていた。
 風に揺れる藤の花が、どこか遠い記憶を呼び覚ます。

 紬野しおりは校舎の屋上で、空を見上げていた。
 頬にあたる風は、春の記憶を運んでくる。
 手には、古びた絵葉書が握られていた。
 何度も何度も見返したその一枚には、藤の花と蝶が描かれている。

 「……結芽先輩、あのときの想い、届いたんですね」
 小さな声で、自分自身に言い聞かせるように呟く。

 光の粒が目の前で揺れる。
 まるで時間がゆっくりと溶けていくかのようだった。

 次の瞬間、視界の端に白い光が差し込む。
 息をのむしおり。
 そこに立っていたのは――結芽。

 「しおり……やっと会えたね」
 結芽の瞳は、あの戦いの記憶を越えたやさしい光に満ちていた。
 白い羽織は風になびき、藤の香りが二人を包む。

 しおりは少し驚き、しかしすぐに微笑んだ。
 「はい……結芽先輩」
 自然と敬語が抜け、呼び方が柔らかく変わった。

 光は二人を取り巻き、まるで時空を超えた舞台のように世界を染める。
 その中心で、しおりはそっと手を伸ばした。
 結芽の手も同じように伸び、指先が触れ合う。

 「ずっと、会いたかった」
 結芽の声は、春の風のように優しく響いた。
 しおりも同じ想いを返す。

 「私もです……ずっと、待っていました」

 そして、光の中にもう一つの気配が浮かび上がる。
 淡い桃色の蝶が、ふわりと二人の間を舞った。
 その羽は、かつての姉たち――胡蝶カナエと胡蝶しのぶの残した想いそのものだった。

 「……お姉さんたちも、見守ってくれてるんですね」
 結芽が微笑む。
 しおりも頷き、空を見上げた。

 光の中で、時間は静かに流れ、まるで世界が二人のために息をしているかのようだった。

 「これからは、もう迷わない」
 しおりの心に、確かな決意が宿る。
 結芽も同じ光を感じ、握った手を強く包む。

 風が吹き、藤の花びらが舞い上がる。
 光に包まれた二人は、過去も未来も超えて、ただ今この瞬間を生きていた。

 ──二つの魂は、永遠に結ばれた。
 その光は、まるで世界を灯す炎のように、静かに、そして確かに輝いていた。
終章 灯 幕明
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