演奏自体は撮影不可だった。
ホールの入り口にも、客席にも、しっかりと「撮影禁止」の表示がされている。
だから演奏中に写真や動画を撮る人はいなかった。
しかし、演奏が終わりスヒョンが舞台袖に戻った後
あなたは両親を探すためにフロアへ出てきた。
その瞬間だった。
誰かが小さく言ったのをきっかけに、あなたへ向けられた。
そして何人かが、そっとスマートフォンを取り出した。
パシャ
シャッ
シャッ
遠くから、こっそりと写真を撮る音。
あなたはそれに気づいていなかった。
両親を探すことに必死だったからだ。
結果として、それはいわゆる“盗撮”のような形になった。
しかし撮影した人たちは悪意があったわけではない。
むしろ逆だった。
そんな声が広がり、撮った写真や動画はSNSへ投稿された。
それが思っていた以上に拡散された。
だが ────────
当の本人、あなたはまったく知らなかった。
あなたはSNSにほとんど興味がない。
Instagramも、コンサートの告知や写真をたまに投稿する程度。
他人の投稿を見ることもほとんどない。
だから自分がSNSで話題になっているなんて、夢にも思っていなかった。
数日後のことだった。
昼間、あなたは自宅でチェロの練習を終え、
ソファに座ってスマートフォンを触っていた。
何気なくInstagramを開く。
すると、DMに「1」という通知があった。
あなたは首を傾げながらメッセージを開いた。
そこにはこう書かれていた。
あなたは画面を見つめた。
そして一言。
しばらく無言でスマホを見ていたが、やがて肩をすくめた。
そう思ったあなたは、そのままスマホを置いた。
その日の夜。
あなたは友人とバーで飲んでいた。
その友人は、あなたのマネージャーのようなこともしてくれている人物だった。
正式なマネージャーではないが、コンサートの管理や連絡などを手伝ってくれている。
グラスの中のカクテルを軽く揺らしながら、あなたはふと思い出した。
スマホを取り出す。
そう言って、友人にDMを見せた。
あなたは笑いながら言う。
友人は画面を見た瞬間、目を見開いた。
そして大きな声を出す。
あなたはびっくりする。
友人は画面を指さした。
あなたは笑った。
友人は首を振る。
そして画面をよく見て言った。
あなたは固まった。
友人は身を乗り出す。
あなたは困った顔になる。
友人は笑いながら言う。
あなたはグラスを持ちながら考える。
友人は即答した。
あなたはまだ、半信半疑だった。
スマホを開き、返信する。
送信
数分後。
スマホが震えた。
あなたは画面を見て驚く。
友人にスマホを見せた。
返信にはこう書かれていた。
あなたは思わず声を上げた。
友人は笑い出した。
あなたは本気で驚いた。
友人は呆れたようにスマホを操作し、画面を見せた。
そこにはあなたの写真や動画。
そしてコメントの数々。
アイドルみたい
スタイル良すぎ
落ち着いてて大人っぽい
恋に落ちそう
かっこいい
あなたは目を見開いた。
友人は笑う。
あなたは困った顔をする。
友人は肩をすくめる。
そして少し真面目な顔で言った。
あなたは少し考え込んだ。
グラスを見つめながら。
そして、小さく呟いた。
友人が聞く。
あなたは遠くを見るように言った。
友人は首を傾げる。
あなたは静かに言った。
友人は笑う。
だがあなたはそれには答えなかった。
スマホを手に取る。
そしてDMを開く。
あなたの頭の中に浮かんでいたのは、
ただ一人の少女だった。
───────── ガウル。
もし今、本当にアイドルになっているなら。
なっていなかったとしても。
もしかしたら。
どこかで
会えるかもしれない。
彼女が放送を目にしてくれたら。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。