楽しげに大通りの商店街で買い物をする人々は、男が突然路地から飛び出してきて、何事かと目を引いた。
始めは皆、懐疑の念を持ち、冗談だと笑う物が多数だった。
彼女が現れるまでは。
一斉に彼女、アルテミシアの方を向く。
同じようにアルテミシアの方を見た老婆は震えて指をさす。
それに感化された人が、老婆に続く。
次々に町の人々は声を上げ、農具や武器となるものを掲げて、アルテミシアに迫る。
まさかの自分に対しての対応がこうなるとはと、大きなショックを受けたアルテミシア。
しかし、ショックを受けている場合でも無いので、半泣きになりながらも辿ってきた道を全速力で逃げる。
たかが数分しか滞在していないアルテミシアに対して、町を知り尽くしている市民ほぼ全員が相手だと、圧倒的に割が合わない。
それでも、アルテミシアはめげずに、今まで鍛え上げられてきた魔法の一つ【風系統魔法】を屈指し、道を突風で遮ったりした。
その頑張りもあってか、どうにか町近くの森の中まで逃げ延びることができた。
その頃にはもう日が沈みかけていた。
町の人々も中々の頑固者で、夜になると松明を持って、未だにアルテミシアを捕まえようとしたいた。
このリアル鬼ごっこは、アルテミシアが制した。
寝る時間も惜しまず1日かけて森の中を必死で逃げ回っていた。
この前まで壊れていた〔サーチ機能〕は使えるようになり、マップ中にもそのような者は見当たらなかった。
アルテミシアはようやく休めると思えると気が抜けて、既に寝る体制をとっていた。
ある程度の守りを作ったアルテミシアは、十数時間、夢の中へと誘われていったのだった。
そして目覚めたのは次の日の朝辺り。
大きな欠伸をし、固まった体をほぐす。
ツグミ。
覚えている人は覚えているだろう。
アルテミシアの数少ないフレンドの1人にして、通知機能を使わずわざわざ手紙でやり取りをする変わった者だ。
ツグミは、時間があればと働くアルテミシアの暴走を止める母的な存在であり、陰でよくアルテミシアを支えていた。
深く息を吐く。
町でのあの大騒ぎの後、また町に行くのは自ら命を投げ捨てるのと同じ事。
また次の町を探すにせよ、少年たちが住む西の村に行くにせよ、同じく迫害されるのは目に見えていた。
〔マップ画面〕を開きスライドしながら見渡す。
眺めていたアルテミシアはあることに気が付いた。
すぐさま〔収納画面〕を開き、あるものを探す。
それをようやく見つけ出したアルテミシアの手の平には、銀のような金属のリングに透明で丸い水晶が嵌まった指輪があった。
その水晶の中に薄らと蓬のようなマークが描かれていた。
アルテミシアがそう言ったこの指輪は、ギルドマスターが持つことの出来る唯一無二のユニークアイテム。
ギルドマスターをしているプレイヤーなら誰でも持てるが、同じ物を持つ者は誰いない。
指輪の形状物のであれば、腕輪、イヤリング、ネックレス、髪飾りなどの物もあり、必ず埋め込まれている水晶にはそのギルドのマークが描かれている。
この指輪は幾つか使い道があり、一つはギルドマスターである証明としても使え……。
掛け声と共に月蓬の指輪を空高くへ投げ上げる。
すると指輪は光だし、羽根のような、はたまた木の葉のような形状へと変わった。
そしてある方角に向かい、流れて行く。
風系統魔法の1つ、素早さを上げる補助魔法【ジェット】を自身に付与し、宙を流れる月蓬の指輪を追った。
思った程時間は掛からずに、形状の変わった指輪は停止し、元の形へと戻った指輪は沈降する。
アルテミシアは地面に落ちたそれを拾い上げ、しまった。
懐かしさを感じるアルテミシアは不意に笑顔になる。
月蓬の指輪のもう1つの能力は、ギルドのある方面に向かって飛んで行くこと。
すなわち、迷子になった時の救済措置だ。
彼女の目の前には、広々とした薬草畑に大きな大樹の下に建てられた家。
ギルド『月蓬の庭』だ。







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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。