さやかside
先生が教室に入り、転校生が来た、と生徒に向かって説明している。
どういう風に、説明してるのかな…。
障害のことは隠して欲しいって言ってるから、言ってないと思うけど…。
万が一言っていても、私には分からない。
けど、生徒達の表情を見る限り、普通の転校生を見る目だから、大丈夫そうだ。
説明が終わり、先生がチョークを渡してくれた。
ここからは、私の番だ。
澄風さやか
黒板にらなるべく丁寧な字で書き、生徒の方を向く。
私は、静かに、地味に暮らすんだ。
だから暗い雰囲気を印象づけるんだ。
控えめにおじぎをする。
顔を上げると、生徒が拍手しているのが目に入った。
なんとなく、拍手の音は聞こえた。
それはきっと、耳に付けてる補聴器のおかげだろう。
先生が、何やらまた何かを言ったようだが、拍手に紛れて聞こえない。
なんて、言ったんだろ…?
少し焦り先生の方を見ると、空席の方を指さした。
ああ、あそこの席に座れってことか。
私は頷き、その席に向かって静かに腰を下ろした。
隣の席の男子は、襟足が黄色のちょっと大人びた人で、少し安心した。
やんちゃな人だと、たくさん話しかけられたり、周りに人が集まってきたりして大変だから。
まあ何はともあれ、第1関門、突破だ。
これで地味な女って思われた…はず。
そう思った時、胸がチクリと痛んだ。
昔の私だったら、もっと明るかったんだけどな。
昔の私を思い出し、気持ちが下がる。
違う、もうあの頃には戻れないんだ。
昔と今は、何もかも違うんだから…。
私は首を振ると、聞こえもしないのに先生の話に頷いたのだった。
かもめside
やったー!俺の隣に転校生が来た!
チラッとあっちに気づかれないように盗み見る。
彼女は静かに本を読んでいた。
そういえば、読書が好きなんだっけ。どんな本が好きなのかな?
気になったけど、なかなか話しかけられない。
うーん、いつもの俺なら気軽に話しかけられるんだけど。
なんか、よく分からないけど、こう…近寄るなオーラというか、話しかけにくい雰囲気がするんだよな。
彼女はただ、本を読んでるだけなのに。
俺は不思議に思いながらも、声をかけられずにいた。
そして、朝の会が終わるや否や、ワッと人が集まってくる。
おおっ、さすが転校生。やっぱみんな気になるよな〜。
いつも誰も集まってこないから、俺の周りに集まってるわけじゃないのにどこか誇らしく思ってしまう。
そう言いながら翔ちゃんが近づいてきた。
そうからかってみると、翔ちゃんはニヤリと笑った。
確かに、女子も男子も彼女の可愛さに心を奪われていそうだ。
俺がうんうん頷いていると、
翔ちゃんが首を傾げながら呟いた。
え、変って?
俺はもう一度、今度はしっかり彼女を見た。
彼女は、1人ずつお願いします、と頬を赤くしながら繰り返していた。
普通の光景…に見えるけど、違うのか?
しばらく翔ちゃんもうなって考えていたけど、首を振った。
気を取り直して、俺が言うと翔ちゃんはまたニヤリと笑って
ふっ、絶対勝ってやる!
俺と翔ちゃんの視線がバチバチとぶつかり…。
勝負開始のゴング(なろっちのいびき)が鳴ったのだった。
𝙉𝙚𝙭𝙩 .💬×3
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!