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第1話

【別に他意はない】
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2024/09/21 15:52 更新


※けい+みな(市川side)※



その違和感に気付いたのは、新体制合宿動画の、ほんの一瞬映った三波斗の表情からだった。
以前にも見たことがあった気がする。
自分が抜けてからというもの、5人になり誰かしらが孤立とまではいかずとも、僅かでも独りになるということは仕方のないこと。
けれど、清春が入るまでの5人とは明らかに異なるものだった。
自分が抜けてからのグループの動画を見ていて、以前彼が言っていたことを思い出した。
きっと譲ったのだ。
自分の位置を。
そして自分は一歩引いて見ることを選んだ。
そのことに果たして気付いたメンバーはいたのだろうか。
自分も今しがた気付いたのだけれど。
気付くべき人物が一番鈍かっただろうな、と無意識下で小さく溜息を吐いた。



それから少しして新体制の彼らはライブに向け一層忙しくなっていった。
SNSの投稿頻度からの憶測ではあるが。
そんな中で投稿された1本のショート動画。
『だるまさんがころんだ』なんて、しかも彼が教師の格好をしているだなんて、誰が想像出来ただろうか。

「あ……」

不意に声が漏れた。
画面の中には、まだ新メンバーに対してぎこちなさの抜けない三波斗と、つまずいた弾みでその腰を抱え込むようにする、かつての自分のポジションである新メンバーの姿。
その瞬間、えも言われぬ感覚に襲われた。

『違うだろ』

思って、すぐに何がだと自分で正した。
元同じグループの、数年苦楽を共にしたメンバーが楽しげに遊んでいるのだから問題は無いだろう。
まだ旧メンバーほどとは言えずとも、仲が深まらなければこの先やってなどいけない。
しかし、モヤモヤとした気持ちの悪さが治まることは無かった。



数日間原因不明のモヤつきに悩まされつつ、自身も仕事が無い訳ではない。
情報は出せずとも水面下でやらねばならないことは山ほどある。
そのことに感謝しながらも、内心は例の件が気になって仕方がなかった。
今頃どうしているのか、その後どうなったのか。
前には考えもしなかったことに戸惑う。
彼のことをこんなにも気にするだなど、らしくないとは分かっているが気になるならば確認すればいいという感情のままTikTokを開いて、そして驚いた。
何故彼はまだ独りでいるのか。
グループのアカウントには複数人での動画も上がっているが、如何せん出演回数が少なすぎる。
確かに5年という活動差は決して少ないとは言えない。
しかし年齢に大差はなかったはず。
合宿動画でも普通に会話している場面もあったから、不仲ということは無いだろう。
一体何故。
得体の知れない不安が焦燥へと変わり、気付けば久しく開いていなかったトーク画面に一文だけ送り付けていた。

[なに?急に>

返信があったのはトークを送ってから半日ほど経過してから。
しかも返信がこれである。
昔であったら既読スルーしていたに違いないが、先に送り付けたのは自分だ。
微かに湧いた怒りを抑え、トークを続けた。

<お前、メンバーと上手くやれてんの?]

送ってから、流石に直球過ぎたか、と少々反省した。
すぐに既読は付いたものの、中々返信が無い。
やはり聞き方を誤ったと訂正しようとした時、スマホが着信を告げた。

『……もしもし』
「なに?」
『こっちの台詞やねんけど?』

もっともである。
けれど反射的に突き放すような言い方になってしまうのは、長年に渡る彼とのやり取りの癖ゆえだろう。

「……そのまんま。新しいメンバーと上手くやれてんの?」

しばし沈黙が続く。
それを打ち破ったのは、三波斗の一言だった。

『いちかわくん、会いたい』



久しぶりにしては短すぎる通話から数日後、俺はバケハを深めに被り、三波斗に指定された駅に来ていた。
買いたいものもあったので早めに家を出たら、予定より早く着いてしまった。
さてどうするかと思っていると、くんっと裾を引かれた。

「……なに」
「……会って一番がそれ?」

そこには、最後に会った頃よりも落ち着いた髪と顔付きの三波斗が立っていた。
身長は相変わらずだが。
思っていたよりも早いご登場に驚く。
別に心の準備なんていらないのに。
思案している内に掴んでいた裾は離され、暑いから行こうという彼の言葉に黙って従うことにした。

少し歩いて辿り着いたのは、駅からやや離れた場所に位置しているが、落ち着いていて静かに過ごせそうなカフェ。
こういう所も来るのかなどと考えていると、店内の一番角にあるソファ席に通された。
向かい合って座り、水が運ばれてきたついでに注文を済ませる。
幸い客は少なく、注文したものもすぐに届いたので一口飲んで喉を潤した。

「で?」

再会した時より表情も和らいだ向かいの人物は、いそいそとかき氷を頬張っている。
そんな呑気な彼に、本題を切り出すように促した。

「……こないださ、市川くん聞いたじゃん」
「うん」
「あれ、動画見てるか知らんけど、まだ自分でもよく分かんないの」
「……分かんないって」

目の前のかき氷をスプーンでつつきながら苦笑している三波斗。
あまり見たことのない表情に内心戸惑う。

「自分はそこにいるのに、周りにいるのは全員違う」

そう告げた彼は、眉間に皺を寄せ、今にも泣きそうな顔をしていた。
そのまま続けられた三波斗の本音。
画面越しでは知っていたけれど、実際に本人から知らされたのは、きっと本人にしか到底理解し難いものなのだろうと思う。
しかし、三波斗の言葉にモヤモヤと留まっていたものの正体が分かった気がした。
ほんの少しの未練と、多分罪悪感。
独りにしてしまったことへの、酷く一方的な。
自分の立場も変わり、周囲の環境も変わり、それをプロデューサーたちは勿論見ていただろうが、渦中にいた三波斗の負担は計り知れない。
それでも、彼はその場に立ち続けたのだ。
気付いた時には、自分の手は彼の丸い頭に伸びていた。

「……なに」
「いや」

たったひと撫で。
三波斗の顔は完全に俯き、その表情はこちらからは伺うことは出来いが、震える肩に我慢していたものが溢れたのだろうということは想像に易くなかった。

「……明日雪でも降るん」

失礼な奴だな。
そんなことを思ったが、言わなかった。

「たまになら相談に乗ってやる」

"元メンバーのなさけだ"そう付け加えて。
その言葉に、ふはっと笑いを零したからきっと正解だったのだろう。
これでいいのだ、俺たちは。
この距離で。
だから、これからも自分は自分のまま彼に接してやろう。
たまに会ってたまに言い合って、時には肩を並べて歩いていけば良い。
それだけで、三波斗は独りではなくなる。
これは自分のエゴ。
ただそれだけ。



ーendー


乱文失礼しました(土下座)

初投稿なのに病み病みで本当に申し訳ありません
旧体制最後のほうのふとした表情を深読みしてしまい、書きたくて堪らず生まれた話です(T T)
きっともっと明るい……こんなはずでは……と思いつつ
次はもっと明るい話を書けたら良いなと思っています……

最後までお読み下さり本当にありがとうございました!

また次の作品(があれば)でお会い出来ることを心から願っております。

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