最近、
自分がどこに立っているのか、分からなくなることがある。
病室。
廊下。
部屋。
場所は同じなのに、
心だけが、少しずつずれている感じ。
私、ちゃんと前見てる?
陽太くんのカルテを閉じるとき、
無意識に息を詰めていることに気づいた。
距離を取ると決めた。
正しい判断だと思った。
なのに、
彼の様子を確認するたび、
胸の奥が、ざわつく。
弟みたい、って思ったから?
違う。
それだけじゃない。
弟は、
守りたかった存在だった。
でも、陽太くんは
守る対象である前に、
ちゃんと"患者"だ。
混ざってしまったのは、
感情じゃない。
立場だ。
守りたい気持ちと、
医者としての距離。
どちらかを捨てなきゃいけない、
そんな気がしていた。
でも、
廊下で見かけた李依葉先生の背中が、
ふと頭に浮かぶ。
近づきすぎない。
でも、離れすぎない。
霧の外から、
ちゃんと中を見ている人。
私は、
"距離を取る"ことと
"閉じる"ことを、
同じにしていた。
だから、苦しかった。
部屋に戻り、
次の予定を確認する。
陽太くんの名前。
少しだけ、深呼吸してから、
予定表を調整する。
極端に離さない。
でも、近づきすぎもしない。
逃げない。
踏み込みすぎない。
今の私が立てる場所。
霧の中でも、
霧の外でもない。
その境目。
白衣の袖を整えると、
胸の奥が、少しだけ軽くなった。
私は、弟の代わりを
誰かに求めなくていい。
私は、
医者として、
一人の人として、
ここに立てばいい。
完璧じゃなくていい。
揺れてもいい。
でも、
自分の場所から、
目を逸らさない。
それが、
私の選び直した答えだった。
ドアの向こうで、控えめなノックの音がした。
反射的に、肩が強張りそうになる。
でも、今日は逃げない。
私は椅子に座り直して、息を整える。
声は、思っていたよりも落ち着いていた。
ドアが開く音を聞きながら、私は思う。
ここが、今の私の立つ場所だ。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。