第82話

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2024/05/25 14:00






救急車が着くまで


やけに長くて


もうその時間が永遠にすら感じた


このまま終わりなんて来ない


明日が来て、狐崎はいつもみたいに


俺につきまとって


ひっついたり、くっついたりしながらでいい


ずっと、この手を握ってくれればそれでよかった。



「北斗、」

北斗「なに?」

「このままさ、目を閉じて目が覚めた時全部夢でしたって、昨日までの世界に戻ってたりしないかな」

北斗「しないな」

「普通に学校行って、授業で寝て、お昼ご飯食べて、たまに加山に絡まれて」

北斗「加山に絡まれるのはいらねぇだろ」

「それで北斗が守ってくれたりして」

北斗「狐崎の方が強い」

「それで、また俺と一緒にいない方がいいなんて言い出してさ、」

北斗「いじるなよ」

「どうせ、北斗はこの先も私以外友達なんてできないだろうな、人の気持ち考えないし」

北斗「考えないわけじゃない、わかんないの」

「この先もずっと一緒にいたかったな、」



そんな言い方するなよ


頼むから、こんなの、おかしいに決まってる


滲む視界の中でも、無理矢理にでも


自分に言い聞かせた


泣いたらダメだ、と


俺が狐崎を守るから。


諦めるわけにはいかないから。


隣にいていい、って、


ずっと一緒だから、って、


そう言って、隣にいてあげないといけないから。


この、寂しがり屋の隣に俺がいてあげないとダメだから。



「ほくと、」

北斗「うん、なに?」

「これだけ、聞いてもいい?」

北斗「うん」

「北斗ってさ私のこと好きだった?」



なんて答えるのが正解だろう


狐崎は俺に今どんな答えを求めてる


こんな状況のせいで、余計なことばかり考えて


これが最後の会話になるかもしれないと


何を言っても、違う気がした。



「本当のことでいいよ、嘘つかれる方が嫌だ」



狐崎はまっすぐに俺をみてた


期待してるわけじゃない


ただ、俺の答えを待っている


嘘偽りのない、俺からの答えを。



北斗「好きだったよ」



狐崎は照れたような顔で


歯を出して笑った


出会った、あの瞬間から大好きな顔だ



北斗「狐崎が階段で俺を庇って加山のこと殴り飛ばした時、覚えてる?」

「覚えてるよ」

北斗「あの時、俺嬉しかったんだよね。こんな風に俺の味方をする人がいるんだって」



狐崎は笑いながら聞いていた



北斗「その時からずっと、狐崎は俺の中で特別で好きだったと思うよ」



正直に答えた俺に


狐崎は顔を赤くしていた



北斗「聞いてきたのそっちだろ」

「最後の最後まで、なんなの、そうゆうことばっかり言って、」



狐崎は泣いてた


ボロボロボロボロ涙を流して


遠くの方から、救急車のサイレンが聞こえてきて


狐崎の手を握る力はどんどん弱まっていて


その小さな手が


俺の手のひらに乗っかっているだけになった時には


俺も、もう、耐えきれなかった















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