第26話

25 サプライズ
402
2026/01/31 06:00 更新
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
な、なんでみんな手ぶらなのー!?
交流会当日の朝。
野薔薇ちゃんの、
あまりにも切実な叫びからすべては始まった。
パンダ
パンダ
お前こそなんだその荷物は?
野薔薇ちゃんは眉を下げて、
どこか落ち着かない様子で続けた。
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
なにってこれから京都でしょ?
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
京都"で"姉妹校交流会
パンダは被せるように、間髪入れず答える。
パンダ
パンダ
京都"の"姉妹校"と"交流会だ
東京で
迷いが確信に変わった途端、
野薔薇ちゃんは髪が乱れるのも気にせず頭を抱え、
口をぱかっと開けたまま全身でショックを表現する。
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
嘘でしょーー!!!
そう、野薔薇ちゃんは
呪術合戦そのものは最初から理解していた。
命がけ? 上等。
バチバチにやり合う? 望むところ。

ただひとつだけ、盛大に勘違いしていたことがある。

場所。

姉妹校交流会は京都で行われるもの。
そう信じて疑わなかった野薔薇ちゃんの頭の中には、

・試合
・試合のあと
・ついでの京都観光

この三点セットが、
きっちり組み込まれていたらしい。

それなのに、
目の前にいる私たちの荷物は、呪具とスマホ程度。
観光の「か」の字もない。
事実を悟った瞬間、
野薔薇ちゃんの肩が目に見えて落ちる。
それを見たみんなは、
どこか呆れた様子で口々に言った。
禪院真希
禪院真希
道理で最近会話がかみ合わないわけだ
伏黒恵
伏黒恵
ですね
狗巻棘
狗巻棘
しゃけ
なんか、ちょっと変だなって思ってたの。
ちゃんと言わなかったの、
今さらだけどごめんね野薔薇ちゃん……!!
パンダ
パンダ
去年勝った方の学校でやんだよ
野薔薇ちゃんは堪えきれず、
パンダ先輩の胸ぐらをどかっと掴んだ。
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
勝ってんじゃねえよばか!
パンダ先輩は胸ぐらを掴まれたまま、
喉を詰まらせるようにして答える。
パンダ
パンダ
俺らは去年出てねえよ
パンダ
パンダ
去年は人数合わせで憂太が参加したんだ
禪院真希
禪院真希
里香の解呪前だったからな。
圧勝だったらしいぞ
禪院真希
禪院真希
京都でやったから見てねえけど
悟から聞いた話なんだけど、
乙骨先輩の特級過呪怨霊____
里香さんが「出ちゃった」らしくて、
その結果、
京都校は見事にぼこぼこだったそうだ。

……恐るべし。

それを悟が
やけに楽しそうに話していたのを思い出す。
あの人、ほんとに嬉々としてた。

やっぱり悟って、性格悪い……?
野薔薇ちゃんは、京都観光の雑誌をくるくる丸めて、即席のミニメガホンを作った。
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
許さんぞ乙骨憂太ー!
会ったことねえけどよー!
よほど京都に行きたかったんだろうな……。

そんな野薔薇ちゃんがかわいそうでかわいい。
今度、一緒に行こうね。
パンダ
パンダ
逆恨みだな
狗巻棘
狗巻棘
しゃけ
階段を上がってくる足音に気づいて、
真希はそちらへ顔を向けた。
禪院真希
禪院真希
おい、来たぜ
階段の上に、次々と人影が現れて、
視線が自然とそちらに集まった。
____来た。京都校だ。
禪院真衣
禪院真衣
あら東京校の皆さんお揃いで、
わざわざお出迎え?
真衣は髪を耳にかけながら、平然と言い放つ。
禪院真衣
禪院真衣
気色悪い
……ひどい。朝から嫌味もフルスロットル。
さすが真衣ちゃん。
敵対意識が強いせいか、
場のあちこちで遠慮のない言葉が交わされる。
東堂葵
東堂葵
乙骨いねえじゃん
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
うるせえ早く菓子折りだせこら!
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
八つ橋葛切りそばぼうろ
野薔薇ちゃんは挑発するように、
人差し指を立てて内側にくいくいっと動かす。
狗巻棘
狗巻棘
しゃけ
狗巻先輩、いつもより声が低い気がする。
東堂葵
東堂葵
腹、減ってんのか
西宮はほうきをぎゅっと握りしめながら、
眉をひそめて言った。
西宮桃
西宮桃
なにあの1年、怖
メカ丸
メカ丸
乙骨がいないのはいいとしテ____
1年3人はハンデがすぎないカ?
野薔薇はロボット____メカ丸の存在に目を見開き、
すかさず叫ぶ。
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
ロボだロボがいる!
加茂憲紀
加茂憲紀
呪術師に年は関係ないよ
加茂憲紀
加茂憲紀
特に伏黒くん。
彼は禪院家の血筋だが____
宗家よりよほど出来がよい
加茂に煽られ、侮辱されたと感じたのか、
真衣は加茂をギロリと睨みつけて舌打ちした。
視線を逸らすこともなく、平然と
加茂憲紀
加茂憲紀
何か?
禪院真衣
禪院真衣
別に
ぎすぎすした二人の間に割って入るように、
三輪が眉を下げて言う。
三輪霞
三輪霞
まあまあ、2人とも落ち着いてください
歌姫先生もこのピリついた空気を収めようと、
手を二回叩く。
庵歌姫
庵歌姫
はーい、内輪で喧嘩しない。
まったく、この子らは
庵歌姫
庵歌姫
で、あのバカは?
ため息混じりの優しい声で、
もう答えは分かっていると言わんばかりだった。
パンダ
パンダ
悟は遅刻だ
禪院真希
禪院真希
バカが時間通りに来るわけねえだろ
伏黒恵
伏黒恵
誰もバカが五条先生のこととは言ってませんよ
誰も驚くことなく、淡々と言葉を重ねる。
その辛辣さに、ちょっと笑ってしまう。
噂をしていると台車が勢いよく入り込む音がして、
全員が一斉にそちらを向いた。
五条悟
五条悟
おっまたー!
現れたのは、案の定遅刻してきた悟。
妙にテンションが高く、台車を押している。
____なにが入っているんだろう?
五条悟
五条悟
やあやあ皆さんおそろいで
わたくし、主張で海外に行ってましてね
五条悟
五条悟
これからお土産を配りたいと思いまーす!
パンダ
パンダ
唐突だな
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
時差ボケじゃない?
悟は出張で海外に行っていたらしい。
京都校の面々に、ある部族のお土産だと言って、
ひとりひとりに手渡ししていく。
ピンクの毛糸で作られたような人形。
皆、ぽかんとしたまま受け取っていく。
素直に喜んでいるのは、
たぶん三輪さんくらいだろう。
悟は相変わらず、楽しそうに歌姫先生に絡んでいる。
もしかして、意外と仲がいいのかと思ったけど。
歌姫先生の表情を見て、
その考えはすぐに引っ込んだ。
五条悟
五条悟
そして、東京のみんなにはこちら!
悟は台車を押したまま勢いよくぐるぐる回り、
五周ほどしてからぴたりと止まる。
そのままV字バランスのポーズを決め、
指差した先は台車のボックスだった。
……相変わらず、無駄に動きが多い。
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
ハイテンションな大人って不気味ね
野薔薇ちゃんがそう突っ込んだ、その瞬間。
ボックスが、ばんっと大きな音を立てて開いた。




















虎杖悠仁
虎杖悠仁
はい、おっぱっぴー!
五条悟
五条悟
故人の虎杖悠仁くんでーす!








声が出なかった。
叫びたかったし、
名前を呼びたかったし、駆け寄りたかった。
胸の奥では全部が一斉に暴れているのに、
喉がそれを通してくれない。

息の仕方を忘れたみたいに、空気がうまく吸えない。

心臓がうるさい。
壊れそうなほど鳴っているのに、
顔はきっと驚いたまま固まっているだけだ。
目の前がにじむ感覚があっても、
瞬きひとつで押し戻す。

死んだと、思っていた。
ちゃんと、そうやって飲み込んだはずだった。
疑いようもなく、
もう戻らないものだと受け止めていた。
だから名前を呼ぶ準備も、顔を見る覚悟も、全部しまい込んだはずだったのに。

それなのに、
今さらこんなふうに現れるなんて反則だ。
こちらの世界がひっくり返っていることも知らずに、
彼は楽しそうにオッパッピーポーズをとっている。
誰も声を出せず、
表情だけが引きつったまま、
場はしんと静まり返った。
そんな私たちを見渡して、
虎杖悠仁
虎杖悠仁
うええええー!! えっ、ええええ!?
虎杖悠仁
虎杖悠仁
ぜんっぜん嬉しそうじゃない!!?
虎杖悠仁
虎杖悠仁
ウ…ウソ〜
彼は想像以上に薄い反応だったことに、
本気で驚いた様子で叫んでいる。
こっちだって頭が追いついてないんだ。
思ってた反応と違ったのはごめんねだけど、
それだけは許してほしい。
虎杖くんの乗ってる台車を動かして、
悟はちゃっかり楽巌寺学長に喧嘩を売っている。
いつもの光景のはずなのに、
今はそれどころじゃなくて。
私たちは、虎杖くんの傍に行った。
見慣れた笑顔じゃないのに、
やっぱりそこにいるだけで、胸がぎゅっとなる。
虎杖くんと目が合った瞬間、胸の奥が限界を迎えそうで、私は反射的に伏黒の背中に隠れた。
今、話したらきっと泣いちゃう。
恵はちらっと私を見たけれど、
その瞳には問いかけも驚きもなく、ただ静かに、
「いいよ」とでも言うように、
何も言わずにいてくれた。
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
おい、なんか言うことあんだろ
野薔薇ちゃんが台車をゲシッと蹴って言う。
もういっそのこと野薔薇ちゃんに怒られて欲しいとも思った。私だって怒ってる。
野薔薇ちゃんの目には涙の膜が張っている。
ひび割れた鏡のようで、
光が当たるたびにキラキラと揺れる。

そんな野薔薇ちゃんを心配そうに見守る恵。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
生きてること黙っててすんませんでした
申し訳なさそうに眉を下げて謝る虎杖くん。
その目には涙がちょこっと浮かんでいる。
話すことはできなかったけど、
心の中でははっきりわかっていた。
みんなほんとは嬉しいんだよ。
生きていてくれて、
ここにいてくれて、安心してるんだよ。
虎杖くんとの合流は完了した。

プリ小説オーディオドラマ