その夜、指定されたのは、表通りからは絶対に見つからない、看板すら出ていない完全会員制の個室レストランだった。
高級感の漂う重厚な扉の前で、私は一度深く呼吸を整える。
ニットの中に隠したネックレスのダイヤを指先でそっと握りしめ、覚悟を決めて扉を開けた。
部屋の中には、いつものように帽子を深く被り、気だるげにグラスを回す翔太さんの背中。
......けれど、その隣には、明らかに翔太さんとは違う、落ち着きのない小さな人影がもう一つ並んでいた。
......え?聞き覚えのある、突き抜けるように明るい、ひまわりみたいな声。
驚いて固まる私の視線の先で、その人はパッと帽子を脱いで、こちらを向いて満面の笑みを浮かべた。
翔太さんに促されて、ようやくその人の顔がはっきりと目に入る。
ピンク色の髪、吸い込まれそうなほどキラキラした瞳。そして、何度も画面越しに見てきたあの笑顔。
あまりの衝撃に、頭で考えるより先に、いつも心の中で読んでいるあだ名が口をついて出てしまった。
ハッとして口を押えたけれど、もう遅い。
翔太さんは少しだけ拗ねたように唇を尖らせたけれど、佐久間くんの方は「さっくんて呼んで呼んで!」と、さらにテンションを上げて私の緊張を解きほぐしてくれる。
翔太さんは顔を真っ赤にして冷えたビールを喉に流し込み、気まずそうに視線を泳がせている。
私なんかのために、彼がそんな風に悩んで、メンバーにまで相談してくれていたなんて。
驚きと同時に、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
佐久間くんは、不意に少しだけ真面目な顔をして身を乗り出した。
その言葉は、どんなボディーガードよりも心強かった。
すると、それまで照れ隠しに黙っていた翔太さんが、テーブルの下で私の手をぐいっと引き寄せ、自分の膝の上で強く、折れそうなほど強く握りしめた。
笑い合う二人を見て、私はようやく、今日一日止まっていた呼吸を深く吐き出した。
アイドルとしての彼、大学生の私。
住む世界が違いすぎて、一人で戦うには限界があった。
けれど、彼はこうして自分の最も信頼する「家族」という盾を私に分け与えて、この恋を一緒に守ろうとしてくれている。
帰り際、駐車場へ向かう薄暗い廊下で、翔太さんが私の耳元で、低く、熱を持った声で囁いた。
繋がれた手のひらから、彼の熱い覚悟が痛いほど伝わってくる。
首元のダイヤが、彼の言葉に呼応するように、私の肌を静かに熱く焦がしていた。










![⛄💜17時のスイッチ[完結]](https://novel-img-gcs.prepics-cdn.com/prcmnovel-tokyo-prod-converted-images/p/EOkNL2MhxNOnLeVbLBmpGszqo363/cover/01KDMET6R8CVT70D1RTK9AKTAJ_resized_240x340.jpg)


編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。