あれから私は感情を持つということを忘れてしまった。忘れたというか、殺してしまった。
ある日、あの人に「試験を受けろ」と、言われた。
なんの試験かはもう勘づいていた。
それは....それは....
人を殺すための試験だ。
それから私は猛勉強した。
凶器の使い方や、能力のこと。
特殊能力というものがあって、それはある条件を満たした人間にしか出来ないという。
あの人とは普段何も話していない。
拾われた日から、何も。
あの人にも能力があるのだろうか。
あの仕事をしているのだから、あるのだろう。
どうやったら条件が満たされるのだろう。
私にも、能力が芽生えるのだろうか。
そんな事を考えながら、試験に受かるための勉強をした。
試験は、面接と実践だけだそうだ。
実践は、あの人と特訓(拷問?)してたので自信はあるが、面接が心配だ。なんせ、私には感情がないから。
情熱なんて暑苦しいもの、芽生えたところで何の得にもならないだろう。嘘はつきたくないので、本当のことを言う。それで落ちてもまぁ、その仕事がしたい訳でもないし。
試験の予定表が届いた。
サッと確認する。
1日目 面接、実践
場所は〜?
書いていなかった。まぁいっか。
そして、試験当日。
あの人が私に目隠しをした。
10秒数えろと言われたので、数えた。
目隠しがはずされた。
そこは、目隠しした状態とほぼ変わらない暗さだった。
これが実戦なのだろう。
スーーー
後ろにいる。
ここで殴っていいのだろうか?
殴ったら失格とか、何も聞いていないのだが?
私は、とりあえずそのうしろの人(?)の首元を叩いて、気絶させた。
そして暗い道をさまよった。
迷路のような、暗い道。感情がない私には怖いとも、悲しいとも、何も思わない。
もしも、ここで「怖い」という感情をもったら?恐らく、合格出来ないだろう。
あの人も感情がないのだろうか。
私は、あの人が笑う所も、泣くところも、怒るところも...何も見たことがない。
テレビで見たことがある。
警察の仕事に密着する番組だ。
スタッフが、ある警察官に尋ねた。
「この仕事のやりがいとはなんですか?」
警察官は答えた。
「人からありがとうと言われたとき、町の人の笑顔が見れた時、僕たち警察官は頑張ってよかった。と、思えるようになります。それが、やりがいなのではないかと思います。」
人を守ることで、人の笑顔を見ることで嬉しいなどといった感情が生まれるのか。
なら、私も、人の役に立ちたい。
嬉しいという感情が何なのか、知りたい。
あの人は、人の役に立ったことがないのだろうか。
私が笑わないから、あの人も笑わないのだろうか。
あの人の仕事に、感情はあるのだろうか。
そう思っていると、目の前に出口が見えた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。