Newlyweds(新婚夫婦)
新婚夫婦のヴァイスとスター、独身のイキシアとドルチェ。
今回やって来たのは、ごく普通の水族館。ここに麻薬カルテルの幹部が来るという情報を掴み、現場を押さえるべく客として来ているのだ。
元気よく返事をするイキシアに、ドルチェは女神のように慈悲深い微笑みを向けて言った。
イキシアにとってスパルタ特訓デーになってしまった。
暗いオーラを漂わせ、従姉妹を相手に慣れないエスコートをするイキシアに、ヴァイスは内心で合掌する。
手慣れていそうな声と仕草とは裏腹に、照れくさそうに頬を赤くしながら手を繋ぐ二人。
周囲の客たちが(何だあの可愛い二人連れ末永く爆発しろ)とキュンキュンしながら見守っていたのは内緒だ。
二人は目で合図し、スマホで自撮りをする。その背景には、ドルチェが直感で怪しいと感じた男が映っていた。
今のは暗号だ。
「あの魚とっても綺麗よ」が「あの人が怪しい」
「どうする、あの子と一緒に写真撮る?」が「対象をピースサインで挟んで写って」
の合図である。
再び腕を組み直し、さり気なく辺りを見回しながら歩き出す二人。
片や老舗の風俗店の看板嬢、片や潜入のプロ。どこからどう見ても『ちょっと付き合い長めなカップル』に見える。
辟易顔のイキシアが面白いのか、ドルチェは上品な笑い声を上げた。
イグサスイセンは水仙の一種で、ジョンキルという名称の方が知られている。
水仙の中でも特に強い香りを持つが、水仙なので、お察しの通り毒を持っている。
ピロン、と通知音が聞こえた。
スマホを確認すると、チャットアプリに自撮り写真が何枚か送られてきている。楽しそうに笑っている従兄弟たちだ。
送られてきた写真は全部で五枚。
続くメッセージには、
その言葉を聞いていたかのように、チャットにメッセージが送られてくる。
茶色の一族のあまりのコミュ強っぷりに、ヴァイスたちは顔を見合わせる。
なぜかしょんぼりした顔の大型犬がスターの脳裏を過ぎる。
この数分後、盗聴器に気づいたヴァイスの鬼電を無視したせいで任務後にひどい目に遭うのだが、それはまた別の話。
それなら少し早い昼休憩にしてしまおう、とイキシアとドルチェはレストランに向かった。
一番奥の席に案内された二人。置いてあったメニューを眺め始めるが、すぐに店内にいる客の違和感に気づいた。
優雅に店員を呼び出し、注文を済ませるドルチェ。
料理を待つ間、先に運ばれてきたワインにも手を付けない。その中に毒が入っているかもしれないからだ。
周囲から注がれる視線の雨を、ドルチェは毛ほども気にせず微笑んだ。
やはり今回の任務は罠。CIAと思われる男たちが店員に追い出されている。店員までグルになってアルカラムを狙っているようだ。
ポカンとするイキシアに、ドルチェは『そうなった場合いかに二人の仲が進展するか』を力説する。
ドルチェはグラスにワインを注ぎ、慎重に口に含む。
その後、二人はワインをどんどん飲み、毒が効いたふりをしてテーブルに突っ伏した。
すぐさま他の客が立ち上がって手を伸ばしてくるのを薄目で見ながら、手足を厳重に縛られた二人はバックヤードに引きずり込まれる。
ポケットの中のスマホが震えるのを感じ、イキシアはスターが事態に気付いてくれるよう願った。
同時刻、盗聴器に気づいて激怒したヴァイスは、イキシアのスマホに鬼電をかけていた。その剣幕は半径3m以内に誰も近寄れないほどだった。
しかしさっぱり繋がらないので、スターに頼んでメッセージを送ってもらっているところである。
さすがヴァイスです、とスターは夫の慧眼に深く頷いた。
早速レストランに向かうが、一般客がどんどん減っていく。それに比例して、どう控えめに見ても裏社会の人間が増えていく。
しかも、レストランの前には明らかに二人を待ち伏せている麻薬カルテルの幹部たちがいる。
少し拗ねた様子のヴァイス。慌ててフォローをしようと脳をフル回転させるスターだが、
と非リアらしい幹部たちが襲いかかってきた。
スターの叫びは途中で途切れる。
一瞬で手早く全員を無力化したヴァイスは、適当に選んだ男の首を掴んで持ち上げ、
と尋問を開始した。
夫の腕前に驚きつつ、スターは幹部たちのポケットを探り、スマホをゲット。指紋認証でセキュリティを解除し、情報を探り始める。
バキ、ボキッ、と嫌な音がし、首を掴まれていた幹部は動かなくなった。他の幹部たちが顔を真っ青にする中、
スターは人質(ドルチェたち)の情報を見つけた。
残る幹部たちを縛り上げ、急いでレストランのバックヤードに走る二人。
バックヤードに通じるドアを開け、奇襲に驚く麻薬カルテルたちを制圧しながら、微かに漂うドルチェの香水の匂いを辿る。
特殊な香りがひときわ強く漂う部屋を見つけ、ドアを壊し気味に乱入した。
そこには麻薬カルテルのメンバーを椅子にして座るドルチェの姿があった。
後ろ手に縛られてはいるが、アルカラム相手にそんな杜撰な拘束をするとは思えない。
顔を見合わせる夫婦に、ドルチェは快く説明を始めた。
部屋にイキシアの姿がないことを訝しんだスターが訊くが、
自分たちが入ってきたドアから現れたのを見て、質問を撤回する。
イキシアは自然にドルチェを立たせ、手を縛っていた縄を切り刻む。
もちろん、新雪のような肌には一切傷をつけていない。
ヴァイスの声が一段と低くなる。
新雪どころか吹雪に巻き込まれたような顔になったイキシアは、震えながら蚊の鳴くような声で返事をした。
そう言われた刹那、脱兎のごとく走り出すイキシア。しかし瞬間移動並みの速さで回り込んだヴァイスに敢え無く捕まってしまった。
蜘蛛の糸は降りてこなかった。
そのままイキシアの襟首を引っ掴み、バックヤードから一時抜けるヴァイス。引きずる音と助けを乞う声が段々遠ざかっていく。
女性陣は呆れた顔を見合わせると、すぐに匿名で警察に通報した。
通報した後、水族館にはパトカーが何台も来て、急遽閉館になる大騒ぎになった。
逮捕者は二十人を超え、死者が一人、バックヤードなどの修理がそれなりにかかるため、しばらく閉館になるという。
辺りを見渡しても、ヴァイスたちの姿はない。
警察官が何人も現場を走り回っているから、捜査されないよう既に帰ったのだろうか?
スターの語尾が風に溶けて消える。
外傷はないが、ヘロッヘロになったイキシアがヴァイスに担がれていたからだ。言葉の刃にしばき回されたに違いない。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。