『バケモノの部落みたいな場所がある、既に人が何人も殺されている、壊滅させてくれ』
ざけんじゃねえブチ殺すぞ!と叫びながら床をゴロゴロ転がる次兄を見て、ハンマーはため息をついた。
甲高い叫び声を上げて跳ね起きるマズル。そっくり同じ顔でニヤつく兄妹を見て、彼は悟った。
ハンマーは最初からバレルがいた事を知った上で、黙っていたのだと。
ギャアギャアと文句を叫び散らしながら、マズルはドアを吹っ飛ばす勢いで出ていった。
葉巻の煙をくゆらせ、バレルは呆れたように肩を竦める。
すると玄関のチャイムが鳴った。
ハンマーが応対したが、不思議そうにピザを抱えて戻ってきたのを見て、バレルは危うく葉巻を噴き出しかける。
早速開封してピザを貪り食う双子の弟を止める。
周囲の木々と比べて、そのクリーチャーは人間より遥かに背が高いと分かる。そして頭部は人間のように丸くなく、むしろメガホン感溢れる形状──。
サイレンヘッド、非常に背の高い人型クリーチャーである。
最も特徴的なのはその頭部で、頭の代わりに二つの大きな警報器のスピーカーが取り付けられている。
森や人里離れた場所に出没し、そのスピーカーから警報音、ラジオの音声、曲、または犠牲者の声などを発して人をおびき寄せたり、獲物を混乱させたりする能力を持つ。
またこれは諸説あるが、姿を周囲の景色に溶け込ませるような、チートレベルの擬態能力を持つとも言われている。
周辺の土地ごと焼き払うか、と物騒な事を言い出すバレル。
バレルは無言で頷く。
実はバレル、ヴァイスとスターが婚約した瞬間から、長老会の命令で戦場や任務に出向く事を一切禁止されていた。
理由は単純、死なれると困るから。
こうして長男を灰色の邸宅に残して、次男と長女はシロネコ公国へ旅立った。
とある森の中。
枯葉の上で立ち往生しながら、ハンマーは森の出口を目指して歩いていた。
しかし歩けど歩けど、出口が見つかる気がしない。
救急車のサイレンのような、獣の唸り声のような奇妙な音がかすかに聞こえる。おそらくサイレンヘッドの声だろう。
側にあった木の根っこに腰掛け、機関銃を抱きしめる。
ガバリと顔を上げるハンマー。
間違いなく兄の声だが、今自分がいるのはサイレンヘッドの巣窟。
機関銃のセーフティを外し、いつでも撃てるよう構える。
サイレンヘッドは『犠牲者』の声を真似ると聞く。
しかしハンマーは冷静さを失わない。引き金に指をかけたまま慎重にあたりを見回す。いかにもサイレンヘッドが擬態しそうな街灯やスピーカー、柱状の人工物は見当たらない。
静かに立ち上がり、静かに移動し始める。兄の声と反対方向に。
しばらく歩いていると、何の前触れもなく轟音が彼女の耳を貫いた。
ゴオォォオオォオォオオオ!!!!!!!!!
さっきまで聞いていた獣みたいな唸り声だ。
救急車のサイレンみたいな音がどんどん遠ざかっていく。
それと同時にハンマーはスピードを上げ、兄の声がした方向から遠ざかる。
その頃、マズルはハンマーがいた場所よりもずっと奥深くの森にいた。
軽口を叩きつつ、その目は忙しく動いている。限られた視覚から最大限情報を集め、次にどう動くべきかを探っている。
そよそよと風に乗って聞こえてくる妹の声に、マズルは思わず苦笑した。
マズルはそう呟き、懐から何かを取り出す。
素早くマッチを擦って火を点け、辺りに派手にばら撒いた。すると激しい光を放ち、バチバチ弾けながら地面の枯葉を跳ね上げ暴れ出す。
ネズミ花火だ。
ゴオォォオオォオォオオオ!!!!!!!!!
不気味なサイレンの音が次々と近寄ってくる。
光、音、人間の気配、どれに引き寄せられたか知らないが、マズルは機関銃のセーフティを外し、引き金に指をかけた。
ついに見えた、頭が警報機の化け物。
マズルは不敵に笑い、用意しておいた耳栓を耳に突っ込む。そして機関銃をサイレンヘッドの頭に向けた。
常人が受けたら頭どころか、一瞬で上半身の原型がなくなるくらいの勢いで連射し続ける。
それでも、サイレンヘッドには少し怯ませる程度しか効果がない。
おまけに一対多、もちろんサイレンヘッドが多である。
自分の方が弱い上に数的不利とは、世の中とは理不尽だよなと呟くマズル。
が、諦めるような事はしない。
上から降ってくる巨大な手を転がりながら避け、巨大な足を飛び越え、隙あらば斬りかかり乱射する。
辺りにメキメキ、ズズン、と木の折れ倒れる音が響く。
悪役のセリフである。
それにサイレンヘッドが「オッケー」と言うはずもなく、ますます熾烈になる攻撃。ギリギリで上からの手を避け、サイレンヘッドたちの死角まで跳ね転がる。
戦い続けたマズルだが、さすがに体力の限界が来た。
左腕は折れ、肋骨も何本か逝っている。サイレンヘッドの腕で殴り飛ばされたのに走れる頑丈さには「お前が人外だろ」と言う他ない。
ゴオォォオオォオォオオオ!!!!!!!!!
後ろからは付かず離れず、サイレンヘッドの雄叫びが追ってくる。速く動けないマズルを嘲笑っているようだ。
垂れてきた鼻血を乱暴に拭い、マズルは木の影に入る。
さっきまで戦っていた場所とは違い、周囲は木が鬱蒼と生い茂る森。戦っていた所も鬱蒼とした森だったが環境破壊により消滅した。
荒くなった息を整え、落ちていた枝を左腕に添え、服を裂いて紐代わりにして縛る。
覗き込んできたサイレンヘッドの喉奥に、マズルは手榴弾をまとめて投げ込む。ボフンとくぐもった音で爆発したが、大したダメージはないようだ。
再び立つが、走る気力も体力もない。機関銃を杖代わりに歩き出す。
頭部の出血も酷いせいで、マズルの意識は段々薄れてきた。
瀕死の重傷とは思えない驚き方をするマズル。
カカオが取り出したのは、何の変哲もないスピーカー。どこに隠し持っていたのだろうか。
カカオがスピーカーのスイッチを入れる。
ゴオォォオオォオォオオオ!!!!!!!!!
という雄叫びが、一瞬にして静かになった。
サイレンヘッドも心なしか、辺りを見回しながら戸惑っている。
本当だ。カカオが事情を話すと快諾してくれた。
狙いを定め、ハンマーが爆弾を投げる。
正確無比の投球は見事標的に着弾、爆発で飛び散った超強力トリモチがサイレンヘッドにへばりつく。
勝利を確信したような雄叫びが、戸惑ったようなへニャリとしたピーポー音に変わった。それすらスピーカーの効果ですぐに打ち消されたが。
カカオはニヤリと笑う。
マズルを背負ったカカオと、自分と兄の銃を持ったハンマーは、森の中を全力で駆け戻る。
スピーカーはマズルが抱えている。効果は続いているので、サイレンヘッドも下手に追うと深手を負うかもしれないと判断したのだろう、追手は来ない。
カカオから連絡を受けたシファルは、意気揚々とスイッチを押す。
空からミサイルが森に落下、爆発し大炎上を起こした。その衝撃で地面が大揺れし、カカオたちまで吹っ飛ぶ。
シファルの通信が入ると同時に、空からヘリコプターが現れ着陸。パイロットは空色の一族のヘンリーだ。
小競り合いをしつつ、ヘンリーはマズルの体を手際よくストレッチャーに固定する。さすが何でも屋だ。
ヘリコプターにはハンマー、カカオも同乗し、桃色の一族の拠点に急行する。
口はマズルに説教しつつ、その手は的確に応急処置を進めていく。麻酔薬の投与も素早い。
さすがプロの看護師である。
その言葉を最後に、やっと麻酔が効いてきたマズルは意識を飛ばす。
十数時間後、マズルの手術は終わり、集中治療室に放り込まれた。
カカオはそれなりに疲れたようでチョコを食べまくり、母の助手を務めたティオは、
とブツブツ呟いている。
二人がヘンリーの差し入れに感動していると、マズルの全身に着けられたバイタル機器が警告音を上げ始めた。
なんとマズル、ちょっと長い昼寝から覚めたくらいの気軽さで、
と全身管まみれのまま目を覚ましたのである。
さすがに起き上がるような事はしないが、それでもこの短時間で目を覚ましたのは化け物だ。
ちなみにその後の経過も極めて順調で、マズルはわずか三週間で退院した。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。